右脳の上頭頂皮質の灰白質の容積
目次
概要
右脳の上頭頂皮質(superior parietal lobule: SPL)は頭頂葉の背側に位置し、視空間注意、感覚と運動の統合、身体図式の更新などに関わります。灰白質の容積はニューロンの細胞体や樹状突起、グリア、血管などの総体としての体積を指し、個体差や加齢、疾患、学習経験で変化します。
容積はMRIのT1強調画像から推定され、体積ベース(VBM)や表面ベース(FreeSurfer等)で定量します。SPLは回旋が複雑で個体差が大きいため、高品質の前処理と厳密な領域マッピングが重要です。
右SPLは特に左空間への注意配分や空間的ワーキングメモリに寄与し、右半球優位性が示唆されています。これは無視症候群や着衣失行など、右頭頂損傷で顕著に現れる症状と整合します。
容積は機能そのものを直接表す指標ではありませんが、発達・加齢軌跡や病態に伴う形態学的変化のバイオマーカーとして、縦断的な変化率や全脳規格化と併用することで有用性が高まります。
参考文献
遺伝と環境
SPL灰白質の容積は遺伝と環境の双方の影響を受けます。双生児研究では、皮質の表面積は高い遺伝率(概ね0.6–0.8)、厚さは中等度(0.2–0.5)で、体積は両者の複合として概ね0.4–0.6の遺伝率が報告されます。
右SPLに特化した推定は研究間でばらつきますが、全般的に頭頂葉背側領域は面積の遺伝性が高い傾向が示されています。共有環境の寄与は小さく、主に一卵性双生児間で一致しない「個別環境」や測定誤差が残余分を説明します。
SNPベースの遺伝率(SNP heritability)は双生児法よりやや低めに出る傾向があり、SPLの厚さ・面積で0.2–0.5程度の値が報告されています。これは共通多型が説明する分だけを捉えるためです。
実務上は、遺伝50–60%、個別環境40–50%、共有環境は0–10%未満程度と見積もり、年齢や性別、頭蓋内容積、スキャナ要因で調整することが推奨されます。
参考文献
- Distinct genetic influences on cortical surface area and cortical thickness
- The genetic architecture of the human cerebral cortex
- Genetic influences on brain structure: a review of twin and family studies
測定と定量
定量は主に二法があります。体積ベース形態計測(VBM)はボクセル単位で灰白質の濃度・体積を比較し、標準空間への非線形変形と組織分割、平滑化を経て群間統計を行います。利点は全脳探索性、欠点は領域境界の曖昧さです。
表面ベース法(FreeSurferなど)は皮質表面を再構成し、厚さ(白質–脳脊髄液間距離)と表面積を推定します。体積は厚さ×面積の派生量として算出できます。利点は皮質折り畳みに沿った解析、欠点は計算負荷と再構成誤差への感度です。
SPLの抽出はDesikan–KillianyやDestrieuxアトラスに基づく自動パーセル化が一般的ですが、個体差の大きい溝構造では視察と品質管理が不可欠です。全脳体積で正規化し、年齢・性別・サイトを共変量に入れるのが標準です。
縦断研究では体積の年間変化率(%/年)を用い、測定誤差を抑えるため同一スキャナ・同一パイプラインの再現性を確保します。パワー計算と多重比較補正(FDR/Family-wise error)も重要です。
参考文献
- Voxel-based morphometry—the methods
- A probabilistic atlas of the human cerebral cortex (Desikan–Killiany)
- FreeSurfer
臨床的意義と解釈
右SPL容積は単独で診断基準にはなりませんが、注意ネットワーク障害、アルツハイマー病の後部優位型や後頭頂変性、脳卒中後の無視や失行などで補助的指標になり得ます。症状、神経心理、他の画像所見と総合的に解釈します。
群平均の有意差は、個人のリスク予測にすぐに外挿できません。効果量、年齢依存性、教育歴、頭蓋内容量、併存症を調整し、可能ならノルムモデル(Zスコア)で位置づけます。
左右差の解釈では、右半球優位の注意機能を踏まえ、右SPLの低下が左側空間の無視傾向と関連し得ることに留意します。ただし構造差と機能差は一対一対応ではありません。
研究・臨床双方で、再現可能性(プリレジ、独立検証)、測定品質(ヘッドモーション、強度不均一補正)、解析柔軟性の管理(多重解析の罠)を徹底することが求められます。
参考文献
- Control of goal-directed and stimulus-driven attention in the brain
- Brain charts for the human lifespan
正常範囲と増減因子
絶対的な「正常値」は存在せず、年齢・性別・頭蓋内容量・スキャナ条件に依存します。大規模リファレンス(UK Biobank等)やBrainChartsを用いた年齢依存ノルムでのZスコア化が有用です。
加齢に伴いSPLを含む灰白質は緩徐に減少しますが、個人差が大きいのが特徴です。教育年数、身体活動、心血管リスク、睡眠、ストレスなどが変動要因として報告されています。
短期的な学習・トレーニング(例:ジャグリング)でも局所灰白質の可塑的変化が示されており、SPL近傍でも経験依存性の増減が観察されます。これは神経やグリアの微細構造変化の反映と考えられます。
異常と判断するのは、Z<−1.5〜−2程度の外れ値が持続し、症候や他検査と整合するときです。その場合も原因は多岐にわたり、専門医による総合評価が不可欠です。
参考文献

