右脳のヘシュル回の灰白質の容積(H1とH2を含む)
目次
解剖学と用語:Heschl回、H1とH2の基本
ヘシュル回(Heschl’s gyrus)は一次聴覚皮質を主に含む横側頭回で、個人差が大きい領域です。H1は最初の横側頭回、H2は重複や分割により生じる二つ目の回として記載されます。右半球では音高や音色などスペクトル情報処理が優位とされます。
H1とH2の出現は解剖学的多様性の表れで、一次聴覚皮質のサブフィールド分化や脳溝の形状に関連します。MRIや解剖学的研究では、H1単独、H1+H2重複、部分分割など複数のパターンが報告されています。
灰白質の容積は神経細胞体や樹状突起、グリアなどの総和を反映し、局所回路の密度や可塑性の指標になり得ます。右ヘシュル回の容積差は音楽経験や聴覚刺激歴と関係づけられてきました。
H1/H2の解剖学的バリエーションは機能的地図(トノトピー)とも対応し、境界は完全に一致しないものの、右側でのスペクトル分解能と結びつく所見が多いです。
参考文献
- Da Costa et al., Human primary auditory cortex subfields (J Neurosci, 2011)
- Rademacher et al., Probabilistic mapping in auditory cortex (Cerebral Cortex, 2001)
- Zatorre & Belin, Spectral vs temporal processing (Trends Cogn Sci, 2001)
測定法と理論:MRIで灰白質容積を定量する
T1強調MRIからの体積算出には大きく二法があります。ボクセルベース形態計測(VBM)は各ボクセルの灰白質確率を推定し、正規化と変形場のヤコビアンで補正して群間比較や回帰解析を行います。
表面ベース法(FreeSurferなど)は皮質表面を抽出し、皮質厚と面積を推定します。所定のパーセレーション(DesikanやDestrieuxアトラス)で横側頭回を同定し、灰白質容積を厚×面積で求めます。
ヘシュル回は形状のばらつきが大きいため、自動ラベリングの誤差対策として表面ベースの手動補正やトポロジー制約を用いることがあります。高解像度やマルチバンド撮像は境界識別を助けます。
測定値は頭蓋内容量(TIV)、年齢、性別、スキャナ差、アトラス差の影響を強く受けるため、共変量調整やzスコア化、サイト効果のハーモナイズ(例えばComBat)が推奨されます。
参考文献
- Ashburner & Friston, VBM (NeuroImage, 2000)
- Fischl, FreeSurfer (NeuroImage, 2012)
- Desikan-Killiany atlas (NeuroImage, 2006)
遺伝と環境:ヘリタビリティの概略
双生児研究では皮質面積の遺伝率が高く(しばしば60–80%)、厚さは中等度(40–60%)と報告され、容積はこれらの複合として中~高い遺伝率を示す傾向があります。
一次聴覚野を含む側頭葉皮質でも中~高い遺伝的寄与が示されますが、環境(学習、音楽訓練、騒音暴露、難聴)も可塑的変化をもたらします。
したがって、右ヘシュル回灰白質容積の分散は概ね遺伝50–70%、共有・非共有環境30–50%程度と推定されます。ただしコホートや手法に依存します。
量的形質遺伝学では遺伝と環境の交互作用も考慮され、例えば音楽訓練に対する形態学的感受性自体に遺伝的下地がある可能性が示唆されています。
参考文献
- Panizzon et al., Genetic influences on cortical surface/ thickness (PNAS, 2009)
- Eyler et al., Genetic/environmental influences on cortex (J Neurosci, 2012)
- Strike et al., Genetic complexity of cortical structure (Nat Neurosci, 2019)
臨床・研究的意義:何がわかるか
右ヘシュル回の容積は音高知覚、音色分解、韻律処理と関係づけられ、音楽家では増大、加齢難聴や一部の神経精神疾患では減少の報告があります。
とはいえ単独の数値で診断はできません。聴力検査、言語・音楽能力、症状、他画像所見と総合解釈する補助指標です。
縦断研究では訓練や補聴・人工内耳後の可塑的変化を追跡でき、介入効果の神経基盤評価に役立つ可能性があります。
疫学的にはビッグデータ(UK Biobank、ENIGMA)で年齢・性差・生活習慣が与える影響のモデリングが進んでいます。
参考文献
- Gaser & Schlaug, Musicians vs non-musicians (J Neurosci, 2003)
- Li et al., Tinnitus grey-matter changes (Sci Rep, 2015)
- UK Biobank imaging
- ENIGMA consortium
値の解釈:正常範囲と異常時対応の考え方
正常値は一律に定義できません。年齢・性・頭蓋内容量・スキャナ・解析法に依存し、同一個人内の縦断変化や集団内zスコアで捉えるのが実践的です。
右左差(側性化)も考慮します。右優位は音楽的・スペクトル処理に整合しますが、個人差が大きく、機能的MRIなどの補助情報が解釈を助けます。
異常に小さい場合は聴覚低下、騒音暴露、発達・神経変性や精神疾患の関与を鑑別に挙げ、聴覚検査や臨床評価を推奨します。
異常に大きい場合も発達的多様性や訓練効果の可能性があり、臨床症状が乏しければ経過観察が一般的です。測定誤差やセグメンテーション品質の再確認も重要です。
参考文献

