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口内炎

目次

定義と分類

口内炎は、口腔内の粘膜に生じる炎症の総称で、痛みを伴う浅い潰瘍やびらん、紅斑などを呈します。一般に最も多いのはアフタ性口内炎(再発性アフタ性口内炎:RAS)で、他に感染性(単純ヘルペス、カンジダ)、アレルギー性、薬剤性、放射線・化学療法に伴う粘膜炎など多様な原因があります。

アフタ性口内炎は、病変の大きさや数で「小アフタ」「大アフタ」「ヘルペス様アフタ」に分類されます。小アフタは直径10mm未満で瘢痕を残さず治癒し、大アフタは10mm以上で治癒に時間がかかり瘢痕化しやすい特徴があります。ヘルペス様は多数の小潰瘍が集簇する病型です。

日常診療で「口内炎」と呼ばれる多くはRASですが、ベーチェット病、口腔扁平苔癬、潰瘍性大腸炎やセリアック病など全身疾患に伴う潰瘍も含まれるため、背景疾患の評価が重要です。持続する潰瘍や非定型例では口腔がんなどの鑑別が必要です。

用語としての口内炎は症候概念であり、単一の病名ではありません。したがって、治療や予防は原因と病型に応じて異なります。市販薬で改善しない、2週間以上続く、発熱や全身症状を伴う場合は医療機関での評価が推奨されます。

参考文献

症状と経過

アフタ性口内炎は、チクチク・灼熱感の前駆症状に続き、赤い斑点の中央が浅くえぐれ、灰白色〜黄白色の偽膜に覆われた痛みの強い潰瘍となります。周囲には紅暈がみられ、食事や会話で痛みが増悪します。小アフタは7〜14日で自然治癒することが多いです。

大アフタは深く大きく、治癒に数週間〜数カ月を要し、瘢痕化して後遺症を残すことがあります。ヘルペス様は多数の微小潰瘍が密集し、強い疼痛のため摂食や口腔ケアが困難になります。再発は数週〜数カ月おきに起こり、ストレスや外傷などが誘因となりやすいです。

赤旗所見として、2週間以上持続する単発潰瘍、硬結や盛り上がりを伴う病変、原因不明の体重減少、発熱や関節痛、眼症状、陰部潰瘍など全身症状の合併があります。これらは悪性疾患やベーチェット病などを示唆するため、速やかな評価が必要です。

小児・青年での初発が多く、加齢とともに再発頻度は減少する傾向があります。女性では月経周期やホルモン変動に関連した増悪が報告されています。一方、喫煙者では角化の亢進などにより発症率が低いことが示されています。

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発生機序

RASの病態は、粘膜バリアの破綻とT細胞優位の免疫応答異常が関与すると考えられています。微小外傷や微生物由来抗原が引き金となり、Th1/Th17系サイトカイン(TNF-α、IL-2、IL-6、IL-17など)が増加し、上皮の壊死と潰瘍形成が進みます。

遺伝的素因に加えて、鉄・葉酸・ビタミンB12欠乏、ストレス、睡眠不足、喫煙中止、月経、特定食品や界面活性剤(ラウリル硫酸ナトリウム)などの環境因子が再発を誘発します。粘膜常在菌叢の乱れも関与が示唆されています。

喫煙者での発症率低下は、煙中成分による角化促進や抗炎症作用の関与が仮説として挙げられますが、健康被害が大きいため予防目的の喫煙は推奨されません。

ベーチェット病など類縁疾患では血管炎や自己炎症機序が関与し、HLA-B*51など特定のHLAハプロタイプとの関連が強いことが知られています。RASはこれらと部分的に病態を共有しますが、単一機序では説明できません。

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遺伝的要因

家族内集積は30〜40%程度と報告され、両親のいずれかに既往があると発症リスクが上昇します。双生児研究は限られ、厳密な遺伝率の推定は困難ですが、遺伝的素因の存在は支持されています。

HLAクラスI・IIとの関連が多数報告され、集団差があります。HLA-A2、B12、B51、DRw9などが各国で候補として挙げられ、特にB51はベーチェット病との関連を介して注目されています。

サイトカイン関連遺伝子(TNF-αプロモーター、IL-1β、IL-6、IL-10、IL-17Fなど)の多型も感受性に影響する可能性が示唆されています。ただし再現性は一様でなく、単独での診断価値は限定的です。

現時点で「遺伝要因と環境要因の比率」を定量する確立データはありません。複数の小さな効果をもつ遺伝子と環境要因が相互作用して発症に至ると理解されています。

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診断・治療と予防

診断は臨床像と経過で行い、非定型例や難治例では血液検査(血算、鉄・フェリチン、葉酸、B12)、セリアック病血清、HIV検査(リスクに応じて)、接触皮膚炎疑いでのパッチテスト、病理組織検査を検討します。

治療の基本は疼痛緩和と治癒促進です。第一選択は局所ステロイド(トリアムシノロン口腔用軟膏、クロベタゾール、デキサメタゾン含嗽)で、鎮痛薬や局所麻酔薬、クロルヘキシジン、スクラルファート、アムレキサノックスなどが補助的に用いられます。重症例ではコルヒチン、全身ステロイド、アザチオプリン、ダプソン、サリドマイドなど専門医管理下で検討します。

予防では、SLS不含歯磨剤の使用、口腔外傷の回避(やわらかい歯ブラシ、合わない義歯の調整)、ストレス管理、睡眠確保、栄養欠乏の是正が有効です。ビタミンB12補充は欠乏がなくても再発抑制に寄与する可能性が示されています。

2週間以上治らない潰瘍、非対称で硬い病変、全身症状のある場合は早期に歯科・口腔外科・皮膚科・内科で評価を受けましょう。早期の鑑別により重篤な疾患の見逃しを防げます。

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