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反応性関節炎

目次

定義と概要

反応性関節炎は、身体のどこかで起きた細菌感染の後に、菌が関節内で増殖していないにもかかわらず関節や腱付着部に炎症が生じる病態を指します。典型的には下痢を伴う腸管感染や、性感染症の後数日から数週間で発症します。かつてはライター症候群と呼ばれる三徴(関節炎・尿道炎・結膜炎)が強調されましたが、現在はより幅広い臨床像を含む「反応性関節炎」という名称が一般的です。自己免疫疾患というより、感染刺激に対する過剰な免疫反応に位置づけられます。

発症は急性で、膝や足首などの大関節に片側性の痛みと腫れが出やすく、足底のかかと付近(アキレス腱付着部)などの腱・靭帯の付着部が痛む「付着部炎」も目立ちます。多くは数カ月以内に改善しますが、一部では長期化して脊椎や仙腸関節に炎症が及ぶことがあります。全身症状として倦怠感や微熱を伴うこともあります。

反応性関節炎は、広義の「脊椎関節炎(スパンドyロアルスロパチー)」の一員と考えられ、乾癬性関節炎強直性脊椎炎といくつかの臨床的・遺伝的特徴を共有します。なかでも白血球の型であるHLA-B27との関連がよく知られており、陽性者ではより重症化や再発の傾向が報告されています。ただしHLA-B27が陰性でも発症することは珍しくありません。

診断は、直近の感染歴と特徴的な関節症状の組み合わせから総合的に行われます。関節内に細菌が存在しないこと(化膿性関節炎の除外)と、ほかの関節炎(痛風、リウマチ熱など)との鑑別が重要です。関節液検査、血液検査、必要に応じて感染源の検査(便培養や性感染症の酸増幅検査)を組み合わせて判断します。

参考文献

原因となる感染症

最も一般的な誘因は腸管感染症で、サルモネラ、シゲラ、カンピロバクター、エルシニアなどの細菌が知られています。これらの病原体は食中毒や集団感染の原因であり、下痢や腹痛の症状から数日から数週間後に関節症状が出現することがあります。便中から病原体が検出されることが診断の助けになりますが、関節から病原体が見つかるわけではありません。

泌尿生殖器の感染、特にクラミジア・トラコマティスによる尿道炎や子宮頸管炎の後にも反応性関節炎が起こり得ます。性感染症としてはしばしば症状が軽く見逃されることがあり、関節炎で初めて誘因に気づく例もあります。性感染の既往やリスク行動の有無は問診で重要な情報になります。

まれではありますが、クロストリジオイデス・ディフィシル感染や、一部の呼吸器感染の後に類似の病態が報告されることがあります。ウイルス感染後の関節痛は別の機序で起きることもあり、反応性関節炎と厳密に区別されないこともあるため、臨床判断が求められます。最近では新興感染症との関連が検討される場面もありますが、因果関係は慎重に評価されるべきです。

重要なのは、関節炎そのものは無菌性であり、関節内で感染が持続しているわけではない点です。つまり抗菌薬は「活動中の感染」が確認された場合や性感染症の治療として必要ですが、関節内感染の治療として用いるわけではありません。誘因感染の同定は、予防や再発リスク低減にもつながります。

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主な症状と経過

反応性関節炎の症状は急性の関節痛と腫れが中心で、特に膝、足首、足の指の関節がよく侵されます。左右非対称に起こることが多く、歩行時の痛みや朝のこわばりが目立ちます。アキレス腱や足底腱膜の付着部痛、かかとの疼痛は日常生活への影響が大きい症状です。

三徴として知られる尿道炎(排尿時痛や分泌物)や結膜炎(目の充血、異物感)が伴うことがありますが、三つが全てそろうケースは多数派ではありません。皮疹として角化性の皮膚変化や爪の変化が出ることもあります。全身症状では倦怠感、微熱、体重減少などが一時的にみられる場合があります。

多くの患者さんでは数週間から数カ月で自然軽快しますが、再発や慢性化する例もあります。HLA-B27陽性、重い初発、脊柱や仙腸関節の関与などは長期化のリスクとされます。慢性化した場合は脊椎関節炎としてのマネジメントが必要で、整形外科やリウマチ科の継続的なフォローが推奨されます。

合併症として、眼のぶどう膜炎や心伝導障害がまれに報告されます。眼痛や視力低下、強い光にしみるといった症状があれば速やかに眼科受診が必要です。関節の腫れが片関節に限局し、発熱や悪寒が強い場合は化膿性関節炎の可能性もあるため、速やかな評価と穿刺排膿が重要になります。

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診断と検査

診断は、最近の腸炎や性感染の既往と、特徴的な関節炎・付着部炎の所見を組み合わせて行います。決定的な単一検査は存在しないため、総合判断が鍵です。感染の証拠として便培養、PCR、性感染症に対する核酸増幅検査(NAAT)などが用いられます。

関節液の穿刺は、化膿性関節炎や結晶誘発性関節炎(痛風や偽痛風)を除外するのに重要です。関節液の細胞数の上昇はみられても、通常はグラム染色や培養で病原体は検出されません。血液検査では炎症反応(CRP、赤沈)の上昇が多く、HLA-B27検査は補助的に用いられます。

画像検査では、急性期の単純X線は変化に乏しいことが多いものの、超音波で付着部炎や滑膜炎の評価ができ、MRIは仙腸関節炎や早期の骨髄浮腫の検出に有用です。慢性化した場合には骨びらんや骨棘形成がみられることがありますが、反応性関節炎単独では高度な構造破壊は稀です。

診断基準は厳密に統一されたものはなく、臨床家は病歴、身体所見、検査結果の組み合わせで最も妥当な診断に至ります。感染性関節炎、乾癬性関節炎、痛風、ライム病などの鑑別は重要で、地域の流行状況や曝露歴も考慮されます。

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治療と生活管理

治療の基本は、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)による痛みと炎症のコントロールです。腫れが限局している関節や付着部には局所の副腎皮質ステロイド注射が有効な場合があります。全身のステロイドは短期・低用量で慎重に用いられます。急性期の安静と患部の冷却、必要に応じた杖や装具の使用が推奨されます。

原因となった感染が持続している場合(特にクラミジア感染)には、適切な抗菌薬治療が必要です。ただし抗菌薬は関節炎自体を直接治療するわけではなく、活動性の感染に対する治療として位置づけられます。腸管感染に対しては支持療法が中心で、抗菌薬は病原体や重症度に応じて選択されます。

症状が遷延する、再発を繰り返す、脊椎や仙腸関節の関与が明らかな場合には、疾患修飾性抗リウマチ薬(スルファサラジン、メトトレキサートなど)や、生物学的製剤(TNF阻害薬など)を考慮することがあります。これらはリウマチ専門医の管理下で、感染リスク評価とワクチン計画を含め慎重に運用されます。

理学療法と運動療法は、痛みのコントロールと機能回復に重要です。筋力維持、関節可動域の確保、足底板や靴の調整など、生活に密着した工夫が効果的です。再発予防の観点からは、食品衛生の徹底や性感染症の予防、感染時の早期受診と治療が役立ちます。

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