双極性障害
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概要
双極性障害は、躁状態(または軽躁)と抑うつ状態が周期的に現れる気分障害で、生涯を通じて反復しやすいことが特徴です。発症は思春期後期から成人早期に多く、学業や就労、家庭生活に大きな影響を及ぼしやすい慢性疾患です。
臨床的には双極I型(明らかな躁病エピソードを伴う)と双極II型(軽躁と大うつが反復する)に大別され、これらの周辺にスペクトラム概念が想定されています。病相の持続は数週から数カ月で、寛解期にはほぼ通常の機能へ戻ることもあります。
世界の生涯有病率は狭義で約1~2%、広義のスペクトラムでは2~3%程度とされ、国や調査方法によって幅があります。治療により多くの人が社会生活を送れますが、再発予防と長期的管理が重要です。
疾患負担は個人のみならず家族や社会にも及び、医療費、休職・離職、合併症(物質使用、代謝疾患など)を通じて大きな影響をもたらします。適切な早期介入と継続治療がアウトカム改善の鍵です。
参考文献
症状
躁(軽躁)期には高揚した気分、易怒性、観念奔逸、多弁、睡眠欲求の低下、活動性や目標指向行動の増加、リスク行動などがみられます。重症例では精神病症状(誇大型妄想など)を伴うこともあります。
抑うつ期では抑うつ気分、興味・喜びの低下、精神運動制止または焦燥、睡眠や食欲の変化、希死念慮などが現れます。双極性の抑うつは、早期発症、非定型特徴、過眠過食、精神運動制止が目立つことがあります。
混合性特徴は躁症状と抑うつ症状が同時に存在する状態で、自殺リスクや機能障害が高いとされます。エピソード間の残遺症状や急速交代(1年に4回以上のエピソード)を示すこともあります。
不安症、ADHD、物質使用障害などの併存が多く、診断と治療を複雑にします。生涯自殺既遂リスクが高い疾患であり、警戒と安全計画が欠かせません。
参考文献
- NICE Guideline CG185: Bipolar disorder
- Bipolar disorders – The Lancet Review (2018)
- NIMH: Bipolar Disorder
原因と危険因子
双極性障害は遺伝要因の寄与が大きく、双生児研究では遺伝率が約60~80%と見積もられています。一方で環境要因(幼少期の逆境、睡眠・概日リズムの乱れ、ストレス、物質使用など)も発症や再発に影響します。
ゲノムワイド関連解析ではCACNA1C、ANK3、TRANK1、NCAN、SYNE1などの多遺伝子が関与し、神経伝達、シナプス機能、カルシウムチャネル、概日時計に関連する経路が示唆されています。SNPベース遺伝率は約0.18~0.25と報告されています。
神経生物学的機序として、ドパミンやグルタミン酸などの神経伝達調節異常、前頭葉-辺縁系ネットワーク機能の変化、HPA軸や炎症マーカーの異常、概日リズムの破綻が提案されています。
出産後のホルモン変動、季節変動、薬物療法の不適切な中断なども再発を促すことがあります。保護因子としては規則正しい生活、社会的リズムの整備、治療アドヒアランスが挙げられます。
参考文献
- Mullins et al., Nature Genetics (2021) PGC Bipolar GWAS
- Polderman et al., Nat Genet (2015) twin heritability meta-analysis
- Bipolar disorders – The Lancet Review (2018)
診断と検査
診断はDSM-5/ICDに基づく臨床評価で行われ、躁(軽躁)と抑うつエピソードの既往を丁寧に聴取します。発達歴、家族歴、併存症の評価、薬物・物質の使用歴の確認が重要です。
スクリーニングにはムード障害質問票(MDQ)やHypomania Checklist-32(HCL-32)が用いられることがありますが、診断確定には面接が不可欠で、偽陽性・偽陰性の限界を踏まえる必要があります。
身体疾患や薬剤性の二次性躁状態を除外するため、甲状腺機能、ビタミン欠乏、感染症、神経学的疾患、ステロイドなどの薬剤影響を考慮し、必要に応じ検査を行います。
状態像の重症度評価や経過モニタリングには自記式尺度、気分日誌、活動量計、睡眠記録などが有用です。自傷他害のリスク評価と安全確保は最優先課題です。
参考文献
- NICE Guideline CG185: Bipolar disorder
- Hirschfeld et al., Am J Psychiatry (2000) MDQ
- Angst et al., J Affect Disord (2005) HCL-32
- StatPearls: Bipolar Disorder
治療と予後
急性期治療では気分安定薬(リチウム、バルプロ酸、カルバマゼピン、ラモトリギン)や非定型抗精神病薬(クエチアピン、オランザピン、ルラシドン、カリプラジンなど)を症状相に応じて用います。重症例や抵抗例には電気けいれん療法が有効です。
維持療法では再発予防、残遺症状の最小化、機能回復を目標に、薬物療法の継続と精神療法(心理教育、CBT、家族焦点療法、社会的リズム療法)を組み合わせます。睡眠と生活リズムの安定化が重要です。
リチウムは再発予防に加え自殺既遂・自殺企図の抑制効果が示唆されています。妊娠計画、代謝副作用、甲状腺・腎機能など安全性モニタリングを含む個別化が求められます。
予後は多様で、適切な治療と支援により多くの人が学業・就労を維持可能です。一方で無治療やアドヒアランス不良、物質使用の併存は再発や機能低下のリスクを高めます。
参考文献

