卵巣癌関連腫瘍マーカーCA 125(CA-125)血清濃度
目次
定義と基礎
CA-125は、主として卵巣上皮性腫瘍で上昇しやすい高分子量ムチン型糖タンパク質MUC16の循環血中フラグメントを指す。臨床では血清や血漿中のCA-125濃度を免疫測定法で定量し、腫瘍マーカーとして用いるが、特異的に卵巣がんにのみ上昇するわけではない点が重要である。
MUC16は細胞表面に存在する巨大な糖衣(グリコカリックス)を形成し、上皮表面の保護、潤滑、シグナル伝達に関与する。悪性腫瘍では過剰発現や糖鎖修飾の変化が見られ、これが血中への放出や免疫逃避、転移過程に影響することが示唆されている。
CA-125という名称は、歴史的にOC125というモノクローナル抗体で認識される抗原に由来する。現在の市販キットはOC125とM11など複数抗体を用いたサンドイッチ法で、異なるエピトープを認識することで感度・再現性を高めている。
基準値は多くの検査系で35 U/mL未満が用いられるが、測定法や集団によって差がある。月経、妊娠、子宮内膜症、骨盤内炎症、肝疾患など良性状態でも上昇しうるため、単独での解釈は避け、臨床情報と併せた判断が不可欠である。
参考文献
臨床での利用
CA-125は卵巣がんのスクリーニング検査としては推奨されない。これは早期がんでの感度が十分でなく、また偽陽性が多いことによる。代わりに、既知の卵巣腫瘍の術前評価や、治療効果判定、再発監視における縦断的な変化の把握に価値が高いとされる。
骨盤内腫瘤を認めた患者では、経腟超音波所見とCA-125を組み合わせた悪性度推定(例:RMI, ROMA)が用いられる。閉経後女性で高値を示す場合は特に注意が必要で、婦人科腫瘍専門医への紹介が推奨される状況がある。
治療中はベースラインからの相対的低下や倍加時間などのダイナミクスが予後や奏効の指標となる。GCIGの基準では、CA-125の一定割合の低下・上昇が進行や奏効の定義に組み込まれている。
これらの活用は、画像検査・病理学的所見・症状と合わせて総合的に判断されるべきであり、単独の数値で治療方針を決めることは避けられる。
参考文献
- NCI PDQ: Ovarian Cancer Screening
- USPSTF: Ovarian Cancer Screening Recommendation
- Rustin et al., J Clin Oncol 2011 (GCIG CA-125 criteria)
測定法と理論
一般に免疫サンドイッチ法(ELISA、化学発光、電気化学発光)が用いられ、二つのモノクローナル抗体が異なるエピトープに結合することで抗原量をシグナルとして定量する。校正曲線に基づく定量で、単位はU/mLが用いられるのが通例である。
RocheのElecsys CA 125 IIやAbbottのARCHITECT CA 125 IIなど、主要プラットフォーム間でトレーサビリティを確保しつつ、抗体組成や検出系の違いにより若干の相違がある。施設間比較では同一法での経時追跡が望ましい。
前分析要因(溶血、脂血、採血時期)や、ヘテロフィル抗体・HAMAなどの干渉、まれな高濃度フック効果への配慮が必要である。結果が臨床像と乖離する場合は再検や別法での確認が考慮される。
標準化は進んでいるが完全ではないため、臨床での意思決定には同一検査系による連続測定と臨床コンテクストの統合が推奨される。
参考文献
生物学的役割
MUC16は大規模な糖鎖修飾を持つ膜貫通型ムチンで、上皮表面でバリア機能を果たす。がんではMUC16の過剰発現と剪断により可溶型フラグメントが血中に放出され、これがCA-125として検出される。
MUC16は中皮のメソセリンに結合し、腹膜播種や着床を促進するとされる。さらに、NK細胞との相互作用など免疫回避に寄与する可能性が報告されている。
このような機能的側面は、CA-125が単なるバイオマーカーにとどまらず、腫瘍生物学の一端を担う分子であることを示す。
一方で、正常生理でもMUC16は卵管、子宮内膜、気道などで発現し、粘膜の保護に寄与するため、非腫瘍性条件での血中変動も説明されうる。
参考文献
限界と留意点
CA-125は卵巣がんに特異的ではなく、月経、妊娠、子宮筋腫、子宮内膜症、骨盤内炎症、肝硬変、心不全、腹膜炎などでも上昇しうる。特に閉経前女性では偽陽性が多く、単独の上昇で悪性を断定できない。
スクリーニング目的での使用は、死亡率低減効果が示されず、害が利益を上回る可能性があるため推奨されない。高リスク群でも有効性の確証は乏しく、リスク低減手術が標準である。
数値の解釈では、単回絶対値よりも経時的な変化や臨床症状、画像所見の統合が必須である。疑わしい場合には専門医への紹介と包括的な評価が必要となる。
患者への説明では、不必要な不安を避けつつ、必要な追加検査やフォローの意義を明確にするコミュニケーションが重要である。
参考文献

