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卵巣癌

目次

卵巣癌の基礎知識

卵巣癌は卵巣・卵管・腹膜の上皮に発生する悪性腫瘍の総称で、最も多いのは高異型度漿液性癌です。初期は症状が乏しく、進行してから腹部膨満や食欲低下が出現しやすいことが診断の遅れにつながります。日本でも罹患は緩やかに増加傾向で、閉経後に多くみられます。

病期はFIGO分類で評価され、治療は根治切除手術とプラチナ系を中心とした化学療法が基本です。近年はPARP阻害薬や抗VEGF抗体など維持療法の選択肢が拡がり、分子診断(BRCA/HRDなど)が予後や治療選択に関わります。

高異型度漿液性癌の多くはp53変異や相同組換え欠損(HRD)を有し、これがPARP阻害薬感受性に関連します。一方、明細胞癌や類内膜癌は子宮内膜症に関連し、分子生物学的背景が異なります。

スクリーニングとしてのCA125や経腟超音波は一般集団では死亡率低下効果が示されておらず、現時点で推奨されません。高リスク群では予防的卵管卵巣切除や専門的なフォローが検討されます。

参考文献

発生機序と分子背景

近年の研究で、多くの高異型度漿液性癌は卵巣ではなく卵管采部上皮(STIC)を起点に発生することが示されました。そこから腫瘍細胞が腹腔内へ播種し、卵巣に着床して病変が可視化されます。

TCGA解析はこの亜型でTP53変異がほぼ一様であること、広範なゲノム不安定性とHRDの頻度が高いことを示しました。これらはPARP阻害薬の有効性やプラチナ感受性と関連します。

類内膜癌・明細胞癌は子宮内膜症病変からの発癌が推定され、ARID1A変異やPIK3CA経路の異常がしばしば認められます。粘液性腫瘍は一次性より他臓器由来の転移との鑑別が重要です。

このように「卵巣癌」は単一疾患ではなく、起源組織・分子異常・臨床挙動が異なる病型の集合であり、サブタイプ別の診療最適化が進んでいます。

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症状と診断のポイント

腹部膨満、早期飽満感、骨盤痛、頻尿や便通異常、月経異常など非特異的症状が多く、数週間から数か月持続する場合は婦人科受診が勧められます。貧血や体重減少が初発の手がかりとなることもあります。

診断は骨盤内診、経腟超音波、造影CT/MRI、腫瘍マーカー(CA125など)を組み合わせて行います。最終診断は手術または生検による病理学的確認が必要です。

ステージ決定と同時に可能な限りの腫瘍減量手術が推奨され、術前に進行度や全身状態を評価して初回治療の方針(一次手術か新規補助化学療法先行か)を決定します。

鑑別として良性嚢胞や子宮筋腫、消化器疾患があり、若年例では生殖細胞腫瘍も考慮します。専門施設での多職種連携が診療成績向上に寄与します。

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遺伝学的要因とリスク評価

卵巣癌の約10〜20%は遺伝性素因が関与し、代表はBRCA1/2の生殖細胞系列変異です。BRCA1/2保因者の生涯卵巣癌リスクは一般集団の約1〜2%に対し、BRCA1で約39〜44%、BRCA2で約11〜17%と報告されています。

Lynch症候群(MLH1, MSH2, MSH6, PMS2, EPCAM)でも卵巣癌リスクが上昇し、MLH1/MSH2で概ね6〜12%が示唆されています。中等度リスク遺伝子としてBRIP1, RAD51C/D, PALB2などがあります。

家族歴や若年発症、二次がんの併発例では遺伝カウンセリングと遺伝学的検査が推奨されます。結果は予防的卵管卵巣切除やPARP阻害薬の適応判断に直結します。

結果の解釈には系統的な遺伝カウンセリングが不可欠で、VUS(意義不明変異)では過剰な医療介入を避けることが重要です。

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予防・スクリーニングと費用支援

一般集団への卵巣癌検診(CA125や経腟超音波)は死亡率を下げないため推奨されません。UKCTOCS試験でも有効性が示されませんでした。高リスク保因者には出産を終えた後の予防的卵管卵巣切除が推奨されます。

妊娠・出産、母乳育児、経口避妊薬の使用、卵管結紮・機会的卵管切除はリスク低下と関連します。一方、喫煙は粘液性腫瘍でリスク上昇、肥満やHRTでは一部でわずかな増加が報告されています。

日本では医療費の7〜9割が公的保険で給付され、自己負担は高額療養費制度で上限が設けられます。収入に応じた自己負担限度額の認定を受けると月内の負担が抑えられます。

治療は地域のがん診療連携拠点病院で受けられ、就労支援・療養相談や自治体のサポートも活用できます。費用や支援は自治体サイトや厚労省の案内で最新情報を確認してください。

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