努力呼気量(FEV1)(1秒量)
目次
定義と臨床的意義
努力呼気量(FEV1)は、深く息を吸った後にできる限り速く強く吐き出した最初の1秒間に呼出される空気の量を指します。スパイロメトリーで測定され、気流制限の有無や程度を評価する中心的な指標です。特に慢性閉塞性肺疾患(COPD)や喘息では病勢評価や増悪リスクの推定に重要です。
FEV1は年齢・身長・性別・民族で変化するため、予測値に対する割合(%予測値)で解釈します。閉塞性障害の診断ではFEV1単独ではなくFEV1/FVC比と併用され、一般に固定比0.70未満または下限値(LLN)未満が用いられます。
GOLDガイドラインではCOPD重症度分類に%予測FEV1が組み込まれ、治療方針やフォローアップの指針として使われます。臨床ではベースラインからの変化や急性増悪後の回復も評価され、予後とも関連します。
FEV1は単位時間当たりの流量と肺弾性の双方の影響を受け、気道口径、肺胞の弾性リコイル、呼気努力の再現性の影響を受けます。適切な測定技術と品質管理が信頼できる解釈に不可欠です。
参考文献
測定法と判定
スパイロメトリーは標準化された方法で実施され、最低3回の受理可能かつ再現可能な努力呼出が必要です。鼻クリップを用い、最大吸気後に素早く最大努力で呼出し、装置は校正済みであることが前提です。測定は熟練した検査者の指導が重要です。
判定ではFEV1、FVC、FEV1/FVCに加え、フローボリューム曲線の形状も確認します。努力の不足や早期終了、咳の混入は結果を歪めます。反復で200 mLかつ10%以上の差がないかなどの品質基準が用いられます。
予測値にはGLI-2012など大規模データに基づく年齢・身長・性別・民族別の式が推奨されます。LLNを用いると加齢による生理的低下に伴う過剰診断を減らせる利点があります。
気管支拡張薬投与前後の可逆性試験は喘息とCOPDの鑑別に有用で、FEV1が12%以上かつ200 mL以上改善すれば有意な可逆性と判定されます。ただし臨床文脈で解釈する必要があります。
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FEV1低下の機序
FEV1低下の中心は気流制限であり、末梢から中枢気道の炎症・リモデリング・平滑筋攣縮・粘液貯留などにより気道径が狭小化します。これにより最大努力時の流量が低下し、1秒間に吐き出せる量が減少します。
肺胞破壊と弾性リコイル低下(肺気腫)も重要です。弾性戻り力が弱まると小気道が呼気時に早期虚脱し、ダイナミックエアトラッピングが生じ、FEV1をさらに低下させます。
一方で拘束性障害ではFVC低下が主体ですが、重度ではFEV1も低下しうるため、FEV1/FVC比と合わせたパターン認識が欠かせません。臨床像・画像・拡散能などと統合して診断します。
急性増悪や感染、アレルゲン曝露、寒冷刺激、運動誘発など一過性要因でもFEV1は変動します。したがって経時的変化やベースラインとの差分の把握が管理に重要です。
参考文献
影響因子(遺伝・環境・加齢)
FEV1には遺伝的素因と環境因子の双方が寄与します。双生児・家系研究では遺伝率は概ね30〜60%と推定されます。一方、SNPベースの遺伝率は15〜25%程度で、未解明の遺伝・環境が残ることを示唆します。
喫煙は生涯のFEV1低下速度を加速し、非喫煙者の年間20〜30 mLに対し、重喫煙者では60 mL以上に達することがあります。禁煙は低下速度を非喫煙者水準に近づけます。
大気汚染(PM2.5、NO2)、職業曝露(粉じん・ガス・ヒューム)、バイオマス燃料、受動喫煙、呼吸器感染、低出生体重や早産など小児期要因も成人期のFEV1に影響します。
FEV1は思春期に到達する最大肺機能(ピーク)と、その後の低下速度の二相で一生の軌跡が決まり、両相とも予後に関与します。若年期の肺の健やかな成長と成人期の曝露回避は長期の健康に重要です。
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限界と解釈の注意
FEV1は努力依存性が高いため、患者協力や手技の質が低いと過小評価されます。検査者の熟練や標準化されたコーチング、装置の校正、再現性基準の遵守が不可欠です。
固定比(FEV1/FVC<0.70)は高齢者で過剰診断、若年で過小診断を招きうるため、LLNの併用が推奨されます。人種・民族による参照式の適用にも注意が必要です。
急性期(感染や増悪直後)、重度の胸痛や最近の胸部手術後、未治療の気胸などではスパイロメトリーは延期すべきです。安全性と結果の信頼性を担保します。
解釈は臨床症状、身体所見、画像、血液検査、治療反応性など総合評価で行います。単一指標としての過度の意味づけを避け、経時的追跡を重視します。
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