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加齢性難聴

目次

概要

加齢性難聴は、年齢とともにゆっくり進行する両側性の感音難聴で、まず高音域から聞こえづらくなるのが典型です。会話の「サ行・タ行」が不明瞭になり、騒がしい場所で言葉を聞き分けにくい、テレビの音量が大きくなる、電話や会議で聞き返しが増えるなどが初期のサインです。

病理学的には、蝸牛の有毛細胞やラセン神経節、血管条(ストリア)の加齢変化、酸化ストレス、微小血管障害、炎症やミトコンドリア機能低下などが複合して進みます。中枢聴覚の加齢変化も関与し、聞き取り(了解度)の低下や聞き疲れとして自覚されます。

有病率は年齢とともに上昇し、世界では65~74歳の約3人に1人、75歳以上の約2人に1人に日常生活を妨げる程度の難聴がみられます。日本でも高齢化に伴い受診者は増加しており、生活の質、就労、社会参加に影響します。

診断は問診、純音聴力検査、語音明瞭度検査などで行います。治療は主に補聴器適合、聴覚リハビリテーション、コミュニケーション支援で、重度の場合は人工内耳が選択されます。原因疾患の除外と併存症の管理(糖尿病、高血圧、難聴を悪化させる薬剤の見直し)が重要です。

参考文献

遺伝と環境の寄与

加齢性難聴は多因子疾患で、遺伝的素因と環境要因が相互作用して発症・進行します。双生児・家系研究から全体の遺伝率(表現型のばらつきのうち遺伝で説明される割合)はおおむね30~60%と推定され、男女や年齢、周波数帯で差があります。

残る40~70%は環境や生活習慣、偶然に伴う要因です。長年の騒音曝露、メタボリック症候群、循環器疾患、喫煙、耳毒性薬剤(例:アミノグリコシド、シスプラチン)、中耳疾患歴などがリスクを押し上げます。

遺伝要因の効果は多くが小さく、数十の共通変異が足し算的に作用します。一方でミトコンドリアDNA変異やまれな機能喪失変異を持つ場合は、環境ストレス(薬剤や騒音)への脆弱性が高まることがあります。

したがって「遺伝か環境か」という二択ではなく、遺伝的素因の上に生活習慣・職業曝露・基礎疾患管理といった修正可能な要因が重なって聴力低下が形作られる、と理解するのが実際的です。

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意味・臨床的解釈

加齢性難聴は「音は聞こえるが言葉がはっきりしない」ことが特徴で、特に子音の識別が低下します。静かな場所では困らなくても、複数人の会話や騒音下で聞き取りが難しいという訴えが代表的です。耳鳴りの併発も一般的です。

聴力像は高音域優位の感音難聴で左右対称に進むことが多いですが、個人差があります。病型は有毛細胞主体(感覚型)、神経節主体(神経型)、血管条主体(代謝型)などに大別されますが、臨床では混在します。

進行は緩徐で、早期から補聴器や環境調整、会話の工夫(はっきり話す、口元を見せる、ノイズを減らす)を始めると、社会参加とQOLを保ちやすくなります。聞き取り訓練などのリハビリも有効です。

未介入の難聴は社会的孤立、抑うつ、転倒、認知機能低下と関連し、近年は認知症リスクの修正可能因子として重視されています。適切な補聴支援は生活全体の健康に波及効果をもたらします。

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関与する遺伝子・変異

ゲノムワイド関連解析(GWAS)により、加齢性難聴に関連する多数の遺伝子座が同定されています。代表的な候補としてGRM7、EYA4、GJB2、KCNQ4、CDH23、COL11A2、TRIOBP、SLC26A5(prestin)などが挙げられ、内耳の有毛細胞機能、シナプス、基質構築、イオンチャネルに関わります。

GRM7については初期の関連報告があり、高齢者の聴力に対する感受性の差に関与する可能性が示されました。最近の大規模コホートでは数十の新規座位が見つかり、影響は一つ一つは小さいものの多因子的な寄与が裏付けられています。

ミトコンドリアDNAのMT-RNR1 A1555G変異は、アミノグリコシド系抗菌薬による耳毒性に強い感受性を与え、加齢性難聴そのものの原因ではないものの、薬剤曝露時の重篤な聴力低下リスクを高めます。臨床では薬歴聴取が重要です。

一部の非症候性遺伝性難聴(KCNQ4、MYO6、TECTAなど)におけるまれな機能喪失変異は、早期からの高音域低下を通じて老年期の聴力像に影響しうるため、家族歴や進行パターンにより遺伝学的評価が考慮されます。

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予防・管理と最新知見

一次予防として、職業・生活上の過度な騒音を避け、音楽の音量・視聴時間を管理することが基本です。循環器・代謝疾患の管理、禁煙、適度な運動、耳毒性薬剤の適正使用が進行抑制に役立ちます。

補聴器は軽中等度から有効で、両耳装用、雑音抑制・指向性、遠隔マイクなどの機能を活用します。装用後のフィッティング調整と聴覚リハビリで言語了解度と満足度が向上します。重度例では人工内耳が検討されます。

難聴への介入は身体・認知機能の維持に寄与します。無作為化比較試験(ACHIEVE試験)では、高リスク高齢者で補聴を中心とする介入が認知低下を抑制する可能性が示され、全身的な健康戦略としての意義が注目されています。

実臨床では、早期発見のためのスクリーニング、家族・職場を巻き込んだコミュニケーション支援、地域資源の活用が鍵です。専門医・言語聴覚士・補聴器技能者の連携で個別最適化を図ります。

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