内臓脂肪と皮下脂肪の割合
目次
概念と重要性
内臓脂肪は内臓の周囲に蓄積する脂肪で、皮下脂肪は皮膚直下に分布する脂肪です。両者の割合は代謝疾患リスクと強く関係し、同じ体重でも内臓脂肪の比率が高い人ほど2型糖尿病や心血管病の危険が高まります。従って、体重やBMIのみでなく、脂肪分布の評価が健康管理で重要となります。
内臓脂肪は門脈を介して肝臓に直接遊離脂肪酸を供給し、肝脂肪蓄積やインスリン抵抗性を促進しやすいと考えられています。一方、皮下脂肪は比較的代謝的に保護的に働く場合があり、特に大腿臀部の皮下脂肪は脂質の安全な貯蔵庫として機能し得ます。
内臓脂肪と皮下脂肪の割合は、単一の数値として日常診療で表示されることは少ないものの、イメージング検査から推定可能であり、腹囲やウエスト身長比などの簡便指標でも間接的に反映されます。生活習慣介入や薬物治療の効果判定でも、この割合の変化は有用な情報を与えます。
この割合は年齢、性別、ホルモン状態、民族差、遺伝要因、生活環境により変動します。加齢や閉経、運動不足、過剰なエネルギー摂取などは内臓脂肪の相対的増加に寄与します。対策としては食事・運動・睡眠の最適化が推奨され、必要に応じて薬物療法が併用されます。
参考文献
- Abdominal obesity and cardiovascular disease—visceral fat as the culprit?
- WHO: Waist circumference and waist–hip ratio report
評価と測定法
内臓脂肪と皮下脂肪の正確な評価にはCTやMRIがゴールドスタンダードとされ、断面画像から各脂肪区画の面積や体積を分離計測できます。日本では臍高位の内臓脂肪面積(VFA)100cm²以上をリスク高の目安とする基準が広く用いられています。
DXAは全身と体幹の脂肪量を推定でき、被曝が少なく研究や臨床で活用されています。超音波法は簡便で外来でのフォローに使える一方、操作者依存性があります。生体電気インピーダンス法は内臓脂肪指数を推定する機器もありますが、体水分等の影響を受けやすく精度は画像法に劣ります。
臨床の現場では腹囲、ウエスト・ヒップ比、ウエスト・身長比(0.5未満が目安)などの簡便指標が広く使われます。これらは内臓脂肪の増加をある程度捉えますが、皮下脂肪の影響も受けるため、限界を理解して活用することが重要です。
経時的な評価では、同じ体重減少でも内臓脂肪が先に減りやすいという特徴を踏まえ、早期の介入効果判定に役立てることができます。可能ならばベースラインと数カ月後の画像比較や、一貫した測定条件での腹囲測定が推奨されます。
参考文献
- 日本肥満学会:肥満症診療ガイドライン等
- Imaging techniques for body composition
- NICE: Waist-to-height ratio to assess and predict health risks
遺伝・環境の寄与
脂肪分布の個人差には遺伝と環境の双方が関与します。双生児・家系研究では、内臓脂肪量や腰臀比(BMI調整)の遺伝率が概ね30〜60%と推定され、残りは食事、運動、睡眠、ストレス、内分泌因子など環境要因の影響とされています。
GWASでは脂肪分布に関与する多くの遺伝座が同定され、例えばLYPLAL1、RSPO3、TBX15-WARS2、GRB14、IRS1などが報告されています。これらは脂肪細胞分化、インスリンシグナル、骨格形成など多様な経路を介して分布に影響します。
民族や性別による差も、遺伝的背景とホルモン環境の相互作用によって説明されます。例えばアジア人は欧米人に比べ、同じBMIでも内臓脂肪比率が高い傾向があり、代謝リスクが過小評価されやすいことが知られています。
一方で環境は可変です。エネルギー過多、超加工食品の摂取、座位時間の増加、短時間睡眠、交代勤務などは内臓脂肪優位を促進します。介入研究は、これら要因を是正すると内臓脂肪の相対比が改善し得ることを示しています。
参考文献
- Genetic studies of body fat distribution (Pulit et al., 2019)
- Sex differences in human adipose tissues (Karastergiou et al., 2012)
生物学的メカニズム
内臓脂肪の脂肪細胞は、皮下脂肪に比べてカテコールアミン刺激に対する脂肪分解感受性が高く、インスリンの抗リポリシス作用に抵抗性を示しやすい性質があります。このため遊離脂肪酸の放出が増え、肝臓での脂質蓄積や糖新生促進に結びつきます。
門脈説は、内臓脂肪から放出された脂肪酸やサイトカインが門脈を通じて肝臓に到達し、局所的なインスリン抵抗性や炎症を惹起するという考え方です。さらに内臓脂肪はマクロファージ浸潤が多く、炎症性サイトカインの産生が高い傾向があります。
性ホルモンは分布に大きな影響を与えます。エストロゲンは皮下脂肪蓄積を促し内臓脂肪を抑制する方向に働く一方、閉経後はその保護が減弱し内臓脂肪比率が上昇します。アンドロゲンやコルチゾールの過剰も内臓脂肪増加に関連します。
骨格筋量や筋内脂肪、褐色脂肪・ベージュ脂肪の活性、腸内細菌叢なども分布に関与します。筋量低下は消費エネルギーの低下とインスリン抵抗性を招き、内臓脂肪の相対増加を助長します。
参考文献
- Abdominal obesity and cardiovascular disease—visceral fat as the culprit?
- Sex differences in human adipose tissues
介入と予防
エネルギー摂取の見直しと身体活動の増加は、体重減少とともに内臓脂肪の選択的減少をもたらします。メタ解析では、中等度以上の有酸素運動やインターバルトレーニング、レジスタンス運動が内臓脂肪を有意に減らすことが示されています。
薬物療法ではGLP-1受容体作動薬(例:セマグルチド)が大きな体重減少に加え、内臓脂肪の減少を伴うことが報告されています。SGLT2阻害薬も糖尿病患者で内臓脂肪と皮下脂肪を減少させるエビデンスがあります。
睡眠の質と時間の最適化、ストレスマネジメント、飲酒の節制も重要です。短時間睡眠や交代勤務はホルモンバランスと食欲調節を乱し、内臓脂肪優位の分布を助長する可能性があります。
集団レベルの対策として、日本の特定健康診査・保健指導は腹囲測定や生活習慣の改善支援を通じて、内臓脂肪関連リスクの早期発見と一次予防を目的としています。定期受診と継続的な支援の活用が推奨されます。
参考文献

