内臓の脂肪組織量
目次
概要と健康上の重要性
内臓脂肪は腹腔内の臓器(肝臓・腸管など)の周囲に存在する脂肪で、同じ体格指数(BMI)でも個人差が大きく、心血管・代謝疾患の強いリスク因子として注目されています。特に2型糖尿病、高血圧、脂質異常症、脂肪肝、冠動脈疾患との関連が一貫して示されています。
皮下脂肪と比べ、内臓脂肪は脂肪分解が活発で遊離脂肪酸を門脈を介して肝臓へ直接供給しやすい性質を持ちます。そのためインスリン抵抗性やアテローム性動脈硬化の促進に結びつきやすいことが、疫学・機序の両面から裏付けられています。
内臓脂肪量の評価には腹部CTやMRIが標準で、断面積(VFA)100cm²以上が日本ではリスクの高い目安として広く用いられます。臨床・健診の現場では、代替としてウエスト周囲径やウエスト身長比などの簡便指標も有用です。
内臓脂肪の増加は見た目の体重増加とは必ずしも一致せず、サルコペニアや加齢変化と相まって「隠れ肥満」として進行することがあります。早期からの生活習慣介入とリスク評価が健康寿命の延伸に直結します。
参考文献
- Body fat distribution and risk of cardiovascular disease: an update
- Visceral adiposity, body fat distribution, and cardiometabolic risk
- 厚生労働省: メタボリックシンドローム対策
遺伝と環境の寄与(遺伝率と比率)
内臓脂肪量には遺伝的素因が中等度に関与し、家系・双生児研究やCT測定を用いた研究では遺伝率がおよそ30〜60%の範囲と報告されています。すなわち生得的な体脂肪分布の傾向が存在します。
一方で、エネルギー過剰摂取、座位行動の増加、睡眠不足、ストレス、飲酒などの環境要因が強く表現型に影響し、可変な部分が大きいのが内臓脂肪の特徴です。したがって一次予防の余地は広いと言えます。
ゲノムワイド関連解析では、体脂肪分布や腰臀比(WHR)に関連する多数の遺伝子座(FTO、RSPO3、LYPLAL1、IRS1など)が同定され、内臓脂肪の蓄積傾向に関与する生物学的経路が示唆されています。
総じて、内臓脂肪量の個人差は「遺伝30〜60%:環境40〜70%程度」と理解され、生活習慣の改善により遺伝的リスクを相殺・緩和できる可能性が高いと考えられます。
参考文献
- Abdominal visceral and subcutaneous adipose tissue: association with cardiometabolic risk and heritability
- New genetic loci link adipose and insulin biology to body fat distribution
- Meta-analysis of genome-wide association studies for body fat distribution in 694,649 individuals
内臓脂肪増加の発生機序
内臓脂肪は脂肪細胞の肥大化と前駆脂肪細胞の分化により増加し、過栄養やインスリン抵抗性、ストレス応答、性ホルモン変化(閉経など)がその背景にあります。組織の血流や神経支配も堆積部位の選択性に影響します。
門脈経路仮説では、内臓脂肪から放出される遊離脂肪酸が門脈を通じて肝臓に流入し、肝脂肪蓄積や肝インスリン抵抗性を誘導するとされます。これが糖代謝異常や脂質異常の起点になります。
内臓脂肪はレプチン、アディポネクチン、レジスチンなどのアディポカインの分泌プロファイルが皮下脂肪と異なり、炎症性サイトカイン(TNF-α、IL-6)を高産生する傾向があり、全身性の慢性炎症を惹起します。
ミトコンドリア機能障害、異所性脂肪蓄積(肝・筋)や交感神経活性化も関与し、脂質代謝の失調とインスリン作用低下が自己増幅的に内臓脂肪の蓄積を進める悪循環を形成します。
参考文献
- Visceral adiposity, body fat distribution, and cardiometabolic risk
- Subcutaneous and visceral adipose tissue: structure and functional differences
- Adipocytokines: mediators linking adipose tissue, inflammation and immunity
臨床像・症状と関連疾患
内臓脂肪の増加は無症候で進むことが多く、腹囲増大や体重変化が乏しい場合でも代謝リスクが上昇し得ます。疲労感、いびきや日中の眠気などが合併症のサインとして現れることもあります。
メタボリックシンドローム(内臓脂肪型肥満に高血糖・高血圧・高トリグリセリド/低HDLが合併)は動脈硬化性疾患のリスク集合体であり、日本では腹囲基準を核にスクリーニングが行われています。
非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD/NASH)、2型糖尿病、睡眠時無呼吸症候群、痛風、女性では多嚢胞性卵巣症候群など、内臓脂肪の増加は多臓器にまたがる影響を及ぼします。
したがって症状そのものよりも、腹囲・血圧・血糖・脂質などの客観指標で早期に危険度を把握し、必要に応じて画像検査で内臓脂肪を定量化することが重要です。
参考文献
測定・早期発見の指標
腹部CT・MRIは内臓脂肪面積や体積を直接計測できる標準法ですが、日常診療や健診では簡便な腹囲、ウエスト身長比(0.5未満が目安)、生体インピーダンス法などが広く使われます。
日本の健診制度では、腹囲(男性85cm以上、女性90cm以上)を入口にリスク層別化を行い、保健指導へつなげる枠組みが整備されています。腹囲は内臓脂肪の代理指標として妥当性が検証されています。
ウエスト身長比は年齢・性別をまたいだ汎用性が高く、民族差にも比較的頑健な指標です。メジャー1本で自宅でも継続測定でき、早期気づきと行動変容のトリガーになります。
既存の腹部画像(CT)からAI等で内臓脂肪を自動定量する取組みも進み、偶発的に撮像されたデータを二次活用したリスク評価が現実味を帯びつつあります。
参考文献
予防と治療
食行動の是正(総エネルギーの適正化、精製糖質・アルコールの控え、たんぱく質・食物繊維の確保)と有酸素+レジスタンス運動の併用は、体重減少の有無にかかわらず内臓脂肪を選択的に減らすことが示されています。
運動では中強度以上の有酸素運動を週150分相当、可能なら高強度インターバルや筋力トレーニングを組み合わせると効果的です。睡眠の確保や喫煙対策、ストレスマネジメントも内臓脂肪の抑制に資します。
薬物療法では、GLP-1受容体作動薬(セマグルチド等)やSGLT2阻害薬が内臓脂肪や肝脂肪の低減を伴う体重減少を示す報告があります。適応や費用対効果を踏まえ、生活介入と併用します。
高度肥満や合併症進行例では、減量手術が内臓脂肪の大幅な減少と心代謝アウトカムの改善に結びつくことが示されています。術前後の栄養・行動療法支援が成功の鍵です。
参考文献

