Forest background
バイオインフォの森へようこそ

全身の電気抵抗

目次

概要

全身の電気抵抗とは、身体に微弱な交流電流を流し、その電圧応答からオームの法則に基づいて求められる抵抗成分を指します。主に体水分量と電解質を多く含む組織(筋・血液)は電気を通しやすく、脂肪や骨は通しにくいという性質の差を利用して、体組成(除脂肪量、体脂肪量、全身水分量など)を推定する際の基礎指標になります。

本指標は疾患名ではなく生体物性値の一つであり、臨床や研究で用いられる「生体電気インピーダンス法(Bioelectrical Impedance Analysis; BIA)」の構成要素です。BIAでは抵抗(R)とリアクタンス(Xc)からインピーダンス(Z)や位相角を算出し、栄養評価や浮腫の評価などに用います。

測定は非侵襲的で短時間、反復が容易という利点があり、ベッドサイドでも実施可能です。一方で、測定条件(体位、絶食状態、発汗、皮膚温など)や個体差(年齢・性別・体格)に左右されるため、標準化が不可欠です。

単一の抵抗値そのものには病名のような診断学的ラベルは付きませんが、抵抗の高低が示す体水分・組成の変化は、栄養障害、脱水、うっ血など多くの臨床状態の把握に有用です。

参考文献

測定原理と周波数依存性

BIAは微小な交流電流(一般に50 kHz前後、機器により単一または多周波)を体幹・四肢に流し、電圧からインピーダンスを求めます。生体は電解質を含む導体であり、組織間の電気的性質の違いにより電流の流れやすさが決まります。抵抗Rは主に体水分量に反比例し、筋量が多いほど小さく、脂肪率が高いほど大きくなります。

細胞膜はコンデンサーのように振る舞い、周波数が低いと電流は細胞外液を優先的に流れ、高周波では細胞内にも浸透します。このため多周波BIA(MF-BIA)やスペクトロスコピー(BIS)は、細胞外水(ECW)と細胞内水(ICW)の分画推定を可能にします。

インピーダンスの周波数依存性はCole-Coleモデルで記述され、抵抗・リアクタンスから位相角が導かれます。位相角は細胞膜の整合性や体細胞量の指標として研究され、栄養・予後指標とも関連づけられています。

生体組織の誘電特性は周波数・温度・水分含量で変化します。筋は水・電解質が豊富で導電率が高く、脂肪は低い導電性を示します。この基礎物性はさまざまな組織データベースや実験で裏付けられています。

参考文献

測定手順と前提条件

正確な抵抗測定には標準化が重要です。一般に、測定前4時間程度の絶食・禁水(あるいは摂取量の記録)、排尿、安静臥位(5–10分)を確保し、金属アクセサリーを外し、体表の汗や保湿剤を除去します。室温は一定に保ち、冷えや発汗を避けます。

電極配置は四肢末端に離して貼付し、接触抵抗を最小化します。手足の位置は体幹から離すことで身体のループ電流を安定化させます。日内変動があるため、追跡測定では同時刻・同条件で行うことが推奨されます。

測定値に影響する要因として、脱水・過水和、直前の運動・入浴・飲酒、食後、月経周期、発熱、利尿薬や点滴などが挙げられます。これらは主に体水分分布や皮膚温、末梢循環を変化させ、抵抗を増減させます。

ペースメーカー等の植込みデバイスがある場合は製品の安全情報とBIA機器の禁忌を確認します。重度浮腫、妊娠、極端な肥満・痩身では推算法の妥当性が低下する可能性があり、解釈に注意が必要です。

参考文献

規定因子:遺伝と環境

全身の電気抵抗は体水分量と体組成に強く依存します。体脂肪率が高いと抵抗は上昇し、筋・体細胞量が多いと低下します。これらの形質には遺伝的要因が中等度から高い割合で関与するとされますが、測定条件や生活習慣など環境要因の影響も大きく、解釈には両者の視点が必要です。

肥満度(BMI)は双生児研究などから遺伝率が概ね40–70%と報告されており、脂肪量の個人差に遺伝が寄与します。一方で、食事・運動・社会環境が強く関与することも広く示されています。これらは抵抗に間接的に反映されます。

筋量・除脂肪量にも遺伝的素因があり、スポーツ関連遺伝子(例:ACTN3 R577X)の多型は筋線維特性やパフォーマンスに関連します。筋・体水分の差異は抵抗値の差として現れますが、効果量は環境(トレーニング、栄養、疾病)で修飾されます。

短期的には水分摂取、塩分、アルコール、発汗・運動、体位変換、気温などが抵抗を変化させ、長期的には加齢、ホルモン、慢性疾患(心不全・腎疾患・肝疾患など)による水分分布の変化が影響します。

参考文献

臨床応用と限界

臨床では、栄養評価(サルコペニア・低栄養のスクリーニング)、うっ血や浮腫のモニタリング、透析患者のドライウェイト推定、スポーツ現場の体組成管理などで活用されます。非侵襲・迅速という特性から外来・病棟の反復測定に適しています。

ただし、抵抗やインピーダンスから体組成を推定するアルゴリズムは人種・年齢・体格集団に依存し、機種間差も無視できません。絶対値の比較より、同一機器・同一条件での縦断的変化を重視するのが実践的です。

浮腫・腹水・胸水の存在、重度肥満、骨格の変形、義肢・切断などでは電流経路が非定常となり、推定精度が低下します。こうした場合は他法(DXA、希釈法、BIS)と併用・相互検証が望まれます。

安全性は高いものの、植込み電子機器の患者では機器の適合情報を必ず確認し、適応外での使用は避けます。測定結果は臨床所見・他検査と統合して判断するのが原則です。

参考文献