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便秘

目次

定義と分類(Rome基準と慢性便秘症)

便秘は「排便回数が少ない」「硬くて出にくい」「残便感がある」など、排便の質・量・満足度が低下した状態の総称です。世界的には機能性消化管障害の一つとされ、器質的な狭窄やがんなど明確な原因がない場合を機能性(または慢性特発性)便秘と呼びます。日本の臨床では症状の持続期間や生活支障の程度も重視されます。

症状判定に国際的に用いられるのがRome IV基準で、過去3カ月のうち月あたり平均週1回以下の排便、過度のいきみ、硬便、残便感、肛門直腸閉塞感、用手的排便補助のうち2項目以上が12週間以上持続することなどが目安です。週3回未満という回数だけでは定義されません。

慢性便秘症は、少なくとも3カ月、しばしば6カ月以上にわたり便秘関連症状が続き、日常生活に支障がある状態を指します。二次性便秘(薬剤、代謝・内分泌、神経・筋疾患など)が疑われる場合は原因検索が必要です。

機能性便秘は主に「大腸通過遅延型(slow transit)」「出口障害型(骨盤底筋協調不全など)」「混合型」に分類され、病態に応じて診断・治療のアプローチが異なります。Rome IVでは便秘型過敏性腸症候群(IBS-C)との鑑別も重要で、腹痛の優位性が分岐点になります。

参考文献

症状の特徴と注意すべきサイン

代表的な症状は、排便回数の減少だけでなく、硬便(ウサギの糞状など)、強いいきみ、残便感、排便に時間がかかる、用手的に排便を補助する必要がある、といった質的な問題です。腹部膨満感や腹痛、食欲低下、疲労感など全身症状が伴うこともあります。

症状は日内変動や食事、ストレス、月経周期などの影響を受けます。特に朝食後の胃結腸反射が弱いとトイレのタイミングを逃しやすく、便秘が慢性化します。排便学習(便意の我慢)の既往も関与します。

注意すべき警告症状(アラームサイン)として、体重減少、貧血、便に血が混じる(黒色便・鮮血便)、原因不明の発熱、夜間の痛み、家族歴に大腸がん・炎症性腸疾患がある、50歳以降に新規発症などが挙げられます。これらがあれば医療機関で精査が必要です。

排便回数は個人差が大きく「週3回〜1日3回」が生理的範囲とも言われます。したがって自己判断での下剤乱用は避け、症状の質と生活への影響で評価し、必要に応じ専門医に相談することが推奨されます。

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病態生理(発生機序)

大腸通過遅延型では、結腸の蠕動運動(とくに高振幅収縮波)が減弱し、便の水分が過剰に吸収され硬くなります。腸管神経系の機能低下、ホルモン・胆汁酸シグナルの異常、粘膜分泌低下、腸内細菌叢の変化などが関与します。

出口障害型では、排便時に肛門括約筋や恥骨直腸筋が過剰に収縮してしまう「骨盤底筋協調不全(dyssynergia)」が中心です。直腸感覚低下や便塊の巨大化も重なり、いきんでも便が出にくくなります。

IBS-Cでは腹痛・腹部不快と排便の関連が強く、知覚過敏と運動異常が併存します。心理社会的因子(ストレス、不安・抑うつ)も症状増悪に関与し、脳腸相関の破綻が背景にあります。

薬剤性(オピオイド、抗コリン薬、Ca拮抗薬、鉄剤、アルミニウム含有制酸薬など)や代謝性(甲状腺機能低下症、高カルシウム血症、糖尿病)・神経筋疾患(パーキンソン病、脊髄疾患)による二次性機序も重要です。

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診断と検査

初期評価では病歴(症状の質・期間、食事、活動度、服薬歴、併存疾患)、身体診察(腹部・直腸診)、基礎的な血液検査(貧血、甲状腺機能、電解質)を行います。アラームサインがあれば内視鏡検査を考慮します。

機能評価として、直腸肛門内圧検査、バルーン排出試験で出口障害の有無を確認します。大腸通過時間はマーカー法(Sitzマーカー)や無線式カプセル(motility capsule)で測定できます。

画像としては、必要に応じ腹部単純X線やCTを行いますが、慢性便秘の多くでは必須ではありません。便潜血検査や大腸がん検診は年齢・家族歴に応じて推奨されます。

IBS-Cとの鑑別には、腹痛が排便に関連し症状の中心かどうかが鍵です。治療反応性も含め、段階的に病態を見極めていきます。

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治療(生活改善と薬物療法)

まずは生活習慣の調整が基本です。水溶性食物繊維(オオバコなど)を中心に1日20〜25g以上を目標に増やし、水分摂取、適度な運動、朝食後にトイレ時間を確保するなど、胃結腸反射を活かす工夫をします。

一般的な市販薬では、膨張性下剤(サイリウム)、浸透圧性下剤(ポリエチレングリコール、乳糖、マグネシウム製剤)、刺激性下剤(ビサコジル、センノシド)などがあります。刺激性は連用で腹痛や耐性が問題となることがあり、用量・頻度に注意します。

処方薬には分泌促進薬(ルビプロストン、リナクロチド、プレカナタイド〈国により異なる〉)、胆汁酸トランスポーター阻害薬(エロビキシバット〈日本〉)、5-HT4作動薬(プルカロプリド〈国により承認状況が異なる〉)などがあり、病態や重症度に応じ選択します。

出口障害が主体なら、骨盤底筋のバイオフィードバック療法が有効です。薬剤性や二次性便秘では原因薬の見直しや基礎疾患の治療が優先されます。治療は段階的に行い、効果・副作用を評価しながら最適化します。

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