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付着部炎関連若年性特発性関節炎

目次

概要

付着部炎関連若年性特発性関節炎(enthesitis-related arthritis: ERA)は、若年性特発性関節炎(JIA)の臨床群の一つで、腱や靭帯が骨に付着する部位(付着部)が炎症を起こす「付着部炎」と、主として下肢の関節炎を特徴とします。国際分類(ILAR)では、付着部炎または仙腸関節炎の所見、もしくはHLA-B27陽性や男子思春期発症のような特徴的背景の組み合わせで定義されます。

ERAは、成人の脊椎関節炎(とくに強直性脊椎炎や末梢優位の非放射線学的脊椎関節炎)と連続性を持つ病型と考えられており、思春期以降に仙腸関節炎や脊椎症状が前景化することがあります。

世界的にみるとJIA全体の10〜20%程度をERAが占めると報告されますが、HLA-B27の頻度が低い東アジアではERAの割合も比較的少ない傾向が指摘されています。日本でもERAはJIAの中で少数派ですが、確実に存在し、適切な診断と治療が必要です。

ERAは慢性疾患である一方、早期診断と適切な薬物療法・リハビリテーションにより、関節や腱付着部の損傷を最小限に抑え、学校生活や運動を含む日常生活の質(QOL)を良好に保つことが可能です。治療は小児リウマチ専門医を中心に、多職種でのチームアプローチが推奨されます。

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症状と臨床像

典型的には、膝・足首・足趾など下肢の大関節の腫れや痛み、朝のこわばりが目立ちます。付着部炎は踵(アキレス腱付着部や足底腱膜付着部)の圧痛、腫脹、運動時痛として現れ、走る・跳ぶなどの動作で増悪します。

思春期以降では、仙腸関節の炎症(仙腸関節炎)により、臀部深部の痛みや起床時の腰背部のこわばりが出ることがあります。休むより動くほど楽になる「炎症性腰痛」の性質を示すことが特徴です。

全身症状としては倦怠感や微熱がみられることがあります。ERAでは慢性ぶどう膜炎は比較的少なく、代わりに痛みや充血を伴う急性前部ぶどう膜炎(HLA-B27関連)が起こり得るため、眼症状があれば早急な眼科受診が重要です。

検査では、炎症反応(CRP/ESR)の上昇やHLA-B27陽性が参考になります。関節エコーは滑膜炎や付着部炎の描出に有用で、MRIは仙腸関節の骨髄浮腫や滑膜炎の検出に優れ、早期診断や治療効果判定に役立ちます。

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診断と分類

国際的小児リウマチ学会(ILAR)基準では、付着部炎の臨床所見、仙腸関節炎、HLA-B27陽性、男子思春期発症、家族歴(脊椎関節炎やぶどう膜炎など)のうちの所定の組み合わせでERAと分類します。鑑別として化膿性関節炎、反応性関節炎、炎症性腸疾患関連関節炎などを念頭に置きます。

身体診察での付着部圧痛、可動域制限、関節腫脹の系統的評価が基本です。エコーは腱付着部の肥厚や血流増加、骨付着部の不整を把握でき、MRIは仙腸関節や脊椎の早期炎症所見を検出できます。

血液検査ではリウマトイド因子や抗抗体はしばしば陰性で、炎症マーカーが活動性に応じて上昇します。HLA-B27は診断を支持しますが、陽性=発症ではなく、陰性でもERAは否定できません。

診断は総合評価で行われ、画像、検査、臨床経過を統合して判断します。治療開始の遅れは関節損傷や機能障害のリスクを高めるため、疑った時点で早期に小児リウマチ専門医へ紹介することが推奨されます。

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病因・遺伝要因と環境要因

ERAの発症は、遺伝的素因と環境因子が相互作用して免疫系の恒常性が破綻することで起こると考えられています。自然免疫・獲得免疫の双方が関与し、とくにIL-23/IL-17軸とTNFシグナルが病態の中心的役割を果たします。

遺伝的にはHLA-B27が最も強い関連を示し、欧州系ではERA患者の多くが陽性です。HLA-B27がどのように炎症を誘導するかは複数仮説があり、ミスフォールディングによる小胞体ストレス、ホモ二量体形成とNK受容体活性化、特異ペプチド提示の偏りなどが提案されています。

非HLA領域では、ERAP1/2、IL23R、CARD9、TNFRSF1Aなど、脊椎関節炎と共有する遺伝子が候補として挙げられています。ただし、個々の変異が発症を決定するわけではなく、全体としての遺伝的リスクの蓄積が背景になります。

環境因子としては、腸内細菌叢の変化、消化管・尿路・上気道感染後の免疫応答、機械的負荷が集中する付着部への反復ストレス、喫煙曝露などが検討されています。明確な予防につながる単独因子は確立していませんが、これらが感受性のある子どもで炎症を駆動しうることが示唆されています。

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治療・長期管理

治療は、痛みと炎症の早期制御、機能維持、構造的損傷の防止を目的に、薬物療法と非薬物療法を組み合わせて行います。初期にはNSAIDsが用いられ、関節や付着部の限局病変には局所ステロイド注射が有効です。

活動性が持続する場合、メトトレキサートなどの従来型疾患修飾薬(csDMARDs)を考慮しますが、ERAでは付着部炎や仙腸関節炎に対してTNF阻害薬などの生物学的製剤の有効性が高く、早期から適用されることがあります。

近年はIL-17阻害薬やJAK阻害薬の小児適応拡大が進みつつあり、難治例への選択肢が広がっています。薬剤選択は活動関節数、付着部炎の重症度、画像所見、併存するぶどう膜炎の有無などを総合して、ガイドラインに沿い個別化されます。

理学療法・作業療法による柔軟性と筋力の維持、姿勢・動作の最適化、心理社会的支援、学校との連携も重要です。定期的な評価に基づくtreat-to-target(寛解/低疾患活動)戦略が推奨され、長期的なQOL向上と社会参加を支えます。

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