二日酔い
目次
二日酔いの概要
二日酔いは飲酒後、血中アルコール濃度がほぼゼロに戻った翌日に現れる一過性の症候群です。頭痛、口渇、吐き気、倦怠感、光や音への過敏、集中力低下などが典型で、睡眠の質の悪化や脱水、免疫・炎症応答、低血糖、アセトアルデヒドなど代謝産物の影響が複合して起こると考えられています。
発症や重症度には、飲酒量と速度、飲料中のコンジナー(ウイスキーや赤ワインに多い副産物)、食事の有無、睡眠時間、体格や性別、体内時計、既往症や薬剤など多数の因子が影響します。一般に体表面積あたりの摂取量が多いほど、また短時間で多飲するほどリスクは高まります。
診断は臨床的で、特異的な検査はありません。重篤な嘔吐や意識障害、激しい腹痛、黒色便などがあれば、単なる二日酔いではなく急性アルコール中毒、膵炎、消化管出血、外傷、アルコール離脱など他の緊急疾患を鑑別する必要があります。
治療は支持療法が中心で、水分・電解質の補給、十分な休息、消化にやさしい食事、必要に応じて市販鎮痛薬(胃腸や腎機能に配慮)などが用いられます。民間療法の多くは科学的根拠が乏しく、唯一の確実な予防は飲み過ぎないことです。
参考文献
二日酔いの遺伝的要因と環境的要因の比率(%)
二日酔いになりやすさは個人差が大きく、その一部は遺伝で説明できます。双生児研究では、二日酔いの頻度・重症度のばらつきのうち遺伝要因が占める割合(遺伝率)が概ね30〜45%程度と推定され、残りの55〜70%は環境要因(飲酒量や習慣、睡眠、食事、ストレス、併用薬など)に起因すると報告されています。
この推定は集団平均に基づくため、個人にそのまま当てはまるわけではありません。遺伝背景が似ていても、同じ人でも状況(空腹、脱水、睡眠不足、速飲み、コンジナーの多い酒)次第で大きく変動します。
遺伝率は「決められた割合」ではなく、測定する指標(頻度、重症度、症状構成)や対象集団、年齢、飲酒文化、測定法により上下します。したがって30〜45%という幅は、現時点の複数研究を総合したおおよその目安と理解するとよいでしょう。
環境要因の中でも、総摂取量と飲酒速度、睡眠の質、飲料の種類(コンジナー含有量)は影響が大きいとされます。予防・対策は主にこの環境側を整えることに焦点が置かれます。
参考文献
二日酔いの意味・解釈
二日酔いは単なる「頭痛」ではなく、急性アルコール曝露からの回復過程で生じる全身的な生理的ストレス状態です。体液量の変化、自律神経の揺り戻し、睡眠段階の分断、炎症性サイトカインの上昇、アセトアルデヒド・フーゼル油などの負荷が組み合わさって症状群を形作ります。
臨床的には、労働生産性の低下や事故リスクの増加、気分や意思決定の障害を通じて社会的コストを生みます。軽視されがちですが、認知・運動機能への影響は飲酒当日より翌日に強く残ることがあり、運転や危険作業は避けるべきです。
研究上の定義では、血中アルコールがほぼゼロに戻った後に発現し、飲酒に起因する不快な症状群とされています。アルコール離脱(長期多飲者に起こる震えや発汗など)や急性中毒とは区別されますが、境界が曖昧なケースもあります。
意味づけとしては、身体からの「飲み過ぎの警告」と捉えるのが実際的です。繰り返す二日酔いは飲酒パターンの見直しや、必要に応じて専門家への相談のサインになります。
参考文献
二日酔いに関与する遺伝子および変異
二日酔いの感受性に強く関わるのがアルコール代謝関連遺伝子です。ADH1B(アルコール脱水素酵素)とALDH2(アルデヒド脱水素酵素)の機能変異は、エタノールからアセトアルデヒド、酢酸への代謝速度を変え、顔面紅潮や動悸、悪心、頭痛などの不快反応や二日酔いのリスクに影響します。
特に東アジアに多いALDH2*2(rs671)変異はALDH2活性を著しく低下させ、少量でもアセトアルデヒドが蓄積します。これにより急性の不耐症状が出やすく、二日酔いを回避するために飲酒量が抑えられる一方、飲むと強い不快症状を呈しやすくなります。
ADH1B*2(rs1229984)は代謝を速め、血中アセトアルデヒドの一過性ピークを高めることで不快反応を増やすことがあります。これらの遺伝子はアルコール使用障害のリスクにも関連しますが、二日酔いに特異的な遺伝子と言えるものは未確立で、GABRA2やセロトニン関連遺伝子などの候補は一貫性に乏しいのが現状です。
遺伝子の効果は環境と相互作用します。同じ変異を持っていても、飲酒量・速度、食事、睡眠、コンジナー、体調などで二日酔いの出方は大きく変わります。遺伝子検査は予防の代替にはなりません。
参考文献
- PLOS Medicine: ALDH2 and Acetaldehyde Toxicity
- Alcohol Research: The Genetics of Alcohol Metabolism (ADH/ALDH)
二日酔いに関するその他の知識
コンジナー(メタノール、フーゼル油、タンニンなど)が多い酒ほど二日酔いが強い傾向があり、ウイスキーやブランデー、赤ワインはウォッカやジンより症状が強まりやすいと報告されています。ただし最も重要なのは総量と飲酒速度です。
脱水は頭痛や口渇の一因になります。水や電解質飲料をこまめに摂り、就寝前や翌朝の補水も有用です。睡眠の分断を避けるため、夜更かしやカフェイン・ニコチンの過量は控えましょう。食事(特に炭水化物・脂質)は吸収を緩やかにし、低血糖や胃粘膜刺激を和らげます。
対策としては、ペース配分(1時間に標準ドリンク1杯目安)、アルコールと同量以上の水、空腹で飲まない、コンジナーの少ない酒を選ぶ、十分な睡眠、翌日の重要タスク前は控える、が基本です。ビタミン剤や「迎え酒」に明確な効果はありません。
市販薬は用量用法を守り、胃腸疾患や腎機能、他薬との相互作用に注意が必要です。鎮痛薬の併用は胃粘膜障害リスクを高める場合があるため、継続的な必要があれば医療者に相談しましょう。
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