Forest background
バイオインフォの森へようこそ

不眠症

目次

不眠症とは(定義と分類)

不眠症は、眠りにつきにくい、途中で何度も目が覚める、早朝に目が覚めて再入眠できない、眠りが浅く回復した感じがない、といった睡眠の質や量の問題が少なくとも週に数回続き、日中の疲労・集中困難・気分低下・作業能率低下などの支障を引き起こす状態を指します。国際分類(ICD-11、DSM-5)では「不眠障害(insomnia disorder)」として、症状の頻度と持続期間(日中機能障害の有無)に基づいて診断されます。

一時的な寝不足や時差ぼけ、急性ストレスに伴う一過性の不眠と、3カ月以上持続する慢性不眠障害は区別されます。慢性化には心理的な「不眠への不安」や不適切な対処(長時間の昼寝、就床延長など)が関与し、症状の悪循環を生みます。

睡眠不足症候群(睡眠時間の意図的な削減)や概日リズム睡眠覚醒障害(交代勤務によるものなど)、閉塞性睡眠時無呼吸症、むずむず脚症候群など、他の睡眠障害が原因で眠れない場合は「二次性」または「併存」不眠とされ、原因となる疾患の評価が重要です。

診断は原則として臨床的評価(問診、睡眠日誌、質問票)により行われ、ポリソムノグラフィー(終夜睡眠検査)は他の睡眠障害が疑われる場合に限って推奨されます。

参考文献

症状と日中への影響

典型的な夜間症状は、入眠困難、睡眠維持困難(中途覚醒)、早朝覚醒、熟眠感の欠如です。これらは週に3回以上生じ、少なくとも3カ月続く場合に慢性不眠障害とされます。

日中の影響には、眠気よりもむしろ疲労感、集中力低下、気分の落ち込みや不安、怒りっぽさ、作業効率低下、事故リスクの上昇が含まれます。慢性不眠はうつ病・不安症、心血管疾患、糖代謝異常との関連も報告されています。

不眠は「眠れないことへのとらわれ」や就床時の過覚醒(交感神経・コルチゾールの高まり)によりさらに悪化します。ベッドで「眠ろうと努力する」ほど眠れなくなるという逆説的な現象がしばしばみられます。

睡眠薬の連用で一時的に症状が軽減しても、根本的な睡眠調整の問題や不適切な睡眠習慣が残存すると再燃しやすく、非薬物療法(認知行動療法)の併用が重要です。

参考文献

原因・危険因子(遺伝と環境)

不眠の背景には、遺伝的素因と環境・生活習慣・心理社会的要因の相互作用があります。双生児研究では不眠症状の遺伝率は概ね30〜40%と推定され、家族内に不眠や関連疾患(不安・うつ)があるとリスクが高まります。

環境・生活要因として、ストレス、交代勤務や夜更かしによる概日リズムの乱れ、就床中のスマートフォン使用、カフェイン・アルコール・ニコチン摂取、疼痛や慢性疾患、刺激性薬の使用などが関与します。

GWAS(全ゲノム関連解析)では、PAX8、MEIS1、NEGR1 など多数の座位が同定され、神経興奮性やシナプス機能、ストレス関連経路への関与が示唆されています。一方、個々の遺伝子の効果は小さく、多因子性であることが明らかです。

発症・遷延の心理学的要因として、寝床で起きている時間の増加、長すぎる昼寝、起床時刻のばらつき、睡眠に関する非現実的な信念や恐れ(「8時間眠れないと大変」等)が悪循環を形成します。

参考文献

診断と評価(検査・質問票・日誌)

診断は問診を中心に、入眠・中途覚醒・早朝覚醒の頻度、日中機能障害、持続期間、併存疾患や服薬状況を丁寧に確認します。睡眠日誌を1〜2週間つけることで、就床・起床時刻、入眠潜時、総睡眠時間、昼寝の実態が可視化されます。

質問票としては、Insomnia Severity Index(ISI)やPittsburgh Sleep Quality Index(PSQI)が広く用いられ、重症度や治療反応の追跡に有用です。過度の眠気が主訴ならEpworth Sleepiness Scaleで併用評価します。

ポリソムノグラフィー(PSG)は、閉塞性睡眠時無呼吸症や周期性四肢運動障害など他の睡眠障害が疑われる場合に適応があります。慢性不眠単独の診断には routine としては推奨されません。

ウェアラブルやアクチグラフィは睡眠リズムや就床・起床時刻の把握に役立つことがありますが、深い睡眠の定量などは限界があり、臨床判断と併用します。

参考文献

治療(CBT-Iと薬物療法)

第一選択は不眠に対する認知行動療法(CBT-I)で、刺激制御療法、睡眠制限療法、体内時計の調整、睡眠に関する誤った信念の修正、リラクゼーションなどから構成されます。多くの研究で持続的な有効性が示されています。

薬物療法は症状・リスクに応じて短期的に併用します。ベンゾジアゼピン系・非ベンゾジアゼピン系(いわゆるZ薬)、メラトニン受容体作動薬、オレキシン受容体拮抗薬などが選択肢です。高齢者では転倒やせん妄のリスクに注意が必要です。

長期連用は依存・耐性や反跳不眠のリスクがあるため、可能な限りCBT-Iを中心に、最小有効量・最短期間を目指します。減量時は段階的に行い、睡眠スケジュールの整備を同時に進めます。

併存症(うつ・不安、疼痛、睡眠時無呼吸など)の治療が不可欠であり、これらの管理が不眠改善に寄与します。生活習慣としては、規則的な起床・日中の光曝露、夕方以降のカフェイン・アルコール制限、就床前の電子機器使用の見直しが有効です。

参考文献