上腕周囲
目次
定義と意義
上腕周囲とは、上腕の最も太い部分ではなく、上腕骨の中点付近(肩峰と肘頭の中間)で測る周囲径を指します。医療や公衆衛生の現場では、栄養状態を迅速に把握するための簡便な指標として広く用いられています。
MUACは皮下脂肪と骨格筋量の両方の情報を反映するため、体重や身長の計測が難しい状況でも栄養リスクのスクリーニングが可能です。特に災害時や途上国のコミュニティ栄養で有用です。
小児ではMUACが急性栄養失調(消耗=wasting)の判定に用いられ、MUAC<115mmで重度、115–125mmで中等度の急性栄養失調と評価する国際的な実務があります。
成人・高齢者でもMUACは低栄養のリスク評価に用いられ、施設や在宅での簡易スクリーニング、サルコペニアやフレイルの兆候把握に役立ちます。研究では死亡リスクの独立予測因子となる報告もあります。
参考文献
- UNICEF: Mid-upper arm circumference (MUAC)
- WHO: Updates on the management of severe acute malnutrition in infants and children
測定方法と判定基準
測定は被検者の左上腕を自然に垂らした姿勢で、肩峰と肘頭の中点をマーキングし、非伸縮性テープを水平に当てて周囲を読み取ります。テープを皮膚に食い込ませず、ゆるすぎないことが重要です。
小児(6–59か月)ではMUAC<115mmを重度急性栄養失調、115–125mmを中等度とするカットオフが広く使われます。年齢や身長計測が難しい現場でも適用可能な利点があります。
成人では明確な世界統一カットオフはないものの、例えばMUAC<23.5cmを低栄養リスク、>32cmを肥満リスクの目安とする実務資料があり、他の指標と併用して評価します。
測定誤差を減らすため、同じ条件で2回以上測定し平均を取る、同じ側の腕を継続測定するなどの基本を守ります。
参考文献
臨床と公衆衛生での活用
小児救命の現場では、MUACがトリアージや治療導入基準に直結します。RUTF(治療用栄養補助食)による外来治療の適格性判定にMUACが用いられます。
成人・高齢者では、入院時の栄養スクリーニング、介護現場でのフレイル予防、在宅医療でのモニタリングに活用されます。握力やふくらはぎ周囲と組み合わせると精度が高まります。
疫学では、集団の栄養不良の有病や介入効果の指標としてMUACが使われます。BMIや体重よりも迅速に変化を捉えられる場面があります。
一方で、浮腫や拘縮、片麻痺など局所要因で値が歪む可能性があるため、身体所見と病歴を合わせて解釈する必要があります。
参考文献
- WHO/UNICEF: Community-based management of acute malnutrition
- ESPEN guideline on clinical nutrition and hydration in geriatrics
決定要因:生物学と環境
MUACは骨格筋と皮下脂肪量が主に規定し、遺伝要因(筋線維タイプや脂肪分布に関与する遺伝子)と環境要因(食事、活動、感染、慢性疾患、社会経済)が相互作用して決まります。
ACTN3やMSTN(ミオスタチン)など筋発達に関わる遺伝子、多型で脂肪蓄積に影響するFTOやMC4Rは、身体組成の違いに寄与し得ると報告されています。
小児では感染症や急性の飢餓・下痢症が短期でMUACを大きく低下させます。成人・高齢者ではサルコペニアや慢性炎症、がん悪液質などが影響します。
社会的孤立やフードアクセスの悪さ、喫煙・過度飲酒、睡眠不足など生活要因もMUACを通じ栄養リスクに結び付きます。
参考文献
限界と補完指標
MUACは簡便ですが、浮腫や片側の筋萎縮がある場合に過小・過大評価を招く限界があります。また、身長の影響を完全には除去できません。
したがって、BMI、体重変化、握力、上腕三頭筋皮下脂肪厚、主観的包括的評価(SGA)、高齢者ではMNAなどを併用することが推奨されます。
縦断的に同一者を追跡し、臨床コンテキスト(食欲、摂取量、疾患活動性、薬剤)を踏まえて解釈することで、MUACの有用性は最大化されます。
研究・現場の両面で標準化手順や年齢補正の拡充が進み、成人のカットオフの最適化に関するエビデンスが蓄積しつつあります。
参考文献

