ヴァルデンシュトレーム マクログロブリン血症
目次
概要
ヴァルデンシュトレーム マクログロブリン血症(WM)は、骨髄のリンパ形質細胞様リンパ腫(LPL)に分類される希少ながんで、単クローン性IgM(免疫グロブリンM)を産生することが特徴です。腫瘍細胞が骨髄に浸潤し、貧血や出血傾向を起こすほか、IgMが血液を粘稠にして循環障害を招くことがあります。
WMは進行が緩やかなことが多く、症状が出るまで経過観察(watch and wait)が選択される場合もあります。一方で、症状が出現したり臓器障害が見られる場合には治療介入が必要になります。
診断には血液検査でIgM M蛋白の検出、血清タンパク分画や免疫固定、骨髄検査による腫瘍細胞の確認が用いられます。近年はMYD88 L265Pなどの体細胞変異の検出が補助的に役立ちます。
治療法はリツキシマブを含む化学免疫療法、プロテアソーム阻害薬、BTK阻害薬(イブルチニブ、ザヌブルチニブなど)、高粘稠度には血漿交換などがあり、患者さんの状態や合併症で選択されます。
参考文献
- NCI PDQ: Waldenström Macroglobulinemia Treatment (Patient)
- Leukemia & Lymphoma Society: Waldenström Macroglobulinemia
症状と合併症
代表的な症状は、貧血によるだるさや息切れ、倦怠感、立ちくらみなどです。血小板減少による皮下出血や鼻出血が見られることもあります。進行に伴い体重減少や寝汗、微熱といった全身症状(B症状)が出る場合もあります。
IgMが高値になると血液が粘っこくなり(高粘稠度症候群)、頭痛、めまい、視力障害、意識混濁などの神経・眼症状が起こります。網膜出血が問題となることもあり、緊急に血漿交換が必要になるケースがあります。
IgMは末梢神経を標的とする自己抗体として働くことがあり、手足のしびれや感覚低下などの末梢神経障害を引き起こします。寒冷凝集素症やクリオグロブリン血症、アミロイドーシスなどの合併も知られています。
脾腫やリンパ節腫脹がみられる場合があり、圧迫感や早期飽満感の原因となることがあります。感染リスクの上昇や出血傾向など、血液・免疫機能低下に関連した症候も注意が必要です。
参考文献
- Leukemia & Lymphoma Society: Signs and Symptoms of WM
- Mayo Clinic: Waldenstrom macroglobulinemia - Symptoms & causes
発生機序と遺伝学
WMの多くでMYD88 L265Pという体細胞変異が認められ、NF-κBシグナルの活性化を通じて腫瘍細胞の生存に寄与します。さらに、CXCR4遺伝子のWHIM様変異が一部症例で認められ、治療反応性や病態に影響を与えることがあります。
これらの変異は生殖細胞系列ではなく後天的(体細胞)に獲得されるもので、家族内発症はあるものの、遺伝性がん症候群としての位置づけは確立していません。家族歴はリスク上昇要因ですが、個々の遺伝率を定量するのは難しいのが現状です。
腫瘍細胞はリンパ球と形質細胞の中間的性質(リンパ形質細胞様)を持ち、骨髄ニッチやサイトカイン環境が増殖・生存を支えます。IgMの過剰産生は高粘稠度や各種パラプロテイン関連合併症の原因になります。
分子標的治療の登場により、病因シグナル(BTKを介したBCR経路や、MYD88関連経路)を抑えることが治療の中心となりつつあります。遺伝子変異プロファイルは薬剤選択や反応性予測にも活用されます。
参考文献
- Treon SP et al. MYD88 L265P in Waldenström’s macroglobulinemia (NEJM 2012)
- Treon SP et al. CXCR4 mutations in Waldenström’s (NEJM 2014)
- ESMO Clinical Practice Guidelines: Waldenström’s Macroglobulinaemia
診断と検査
診断には、血清蛋白電気泳動と免疫固定で単クローン性IgMの検出を行い、定量的にIgM値を測定します。さらに、骨髄穿刺・生検でリンパ形質細胞様細胞の浸潤を確認し、フローサイトメトリーで免疫表現型を評価します。
高粘稠度が疑われる場合は血清粘稠度の測定や眼底検査が有用です。クリオグロブリンや寒冷凝集素、溶血の評価、末梢神経障害の電気生理学的検査など、合併症に応じた検査も行われます。
分子検査ではMYD88 L265PやCXCR4変異の有無を調べ、鑑別診断や治療選択の参考にします。IgM MGUSや他のB細胞リンパ腫との鑑別も重要です。
症状の程度、臓器障害、貧血や血小板減少の重症度、IgM濃度などを総合して、治療開始の適応を判断します。無症候では定期的な経過観察が標準です。
参考文献
- NCCN Guidelines for Patients: Waldenström Macroglobulinemia/LPL
- NCI PDQ: Waldenström Macroglobulinemia Treatment (Patient)
治療
症状がない場合は治療せず定期観察が推奨されます。症候性であれば、リツキシマブ併用療法(例:ベンダムスチン+リツキシマブ、DRCレジメン)やプロテアソーム阻害薬(ボルテゾミブ)を含むレジメンが選択肢になります。
BTK阻害薬(イブルチニブ、ザヌブルチニブなど)はMYD88変異陽性例で特に有効性が高く、初回治療や再発時に広く用いられています。CXCR4変異は反応性や反応速度に影響することがあります。
高粘稠度症候群ではリツキシマブ投与でIgMが一過性に上昇する現象(IgMフレア)を避けるため、初期に血漿交換を行うことが推奨されます。支持療法として輸血や感染予防も重要です。
自家造血幹細胞移植は若年・化学感受性の高い再発例で選択される場合がありますが、適応は限られています。治療選択は合併症、年齢、優先する副作用プロファイル、患者さんの希望を踏まえて個別化されます。
参考文献

