レニン(REN)血清濃度
目次
概説:レニンと「血清濃度」という表現
レニンは腎臓の傍糸球体(じゅうしきゅうたい)細胞から分泌される酵素で、レニン‐アンジオテンシン‐アルドステロン系(RAAS)の起点となる重要な分子です。ナトリウムの出入りや血圧、体液量の恒常性維持に関わり、腎灌流圧の低下や交感神経の刺激、遠位尿細管での濃度変化などで分泌が調節されます。
臨床検査で「レニンの血中量」を評価する際には、厳密には「血清」よりも「血漿」で測るのが標準です。多くの施設では「血漿レニン活性(PRA)」か「直接レニン濃度(DRC)」のいずれかを用い、前者は基質から生成されるアンジオテンシンIの生成速度、後者はレニンそのものの量を免疫学的に測ります。
したがって「レニン(REN)血清濃度」という言い回しは日常診療では少なく、正確には血漿での測定を意味していることが多い点に注意が必要です。検体の種類や姿勢、採血時間、食塩摂取量、薬剤の影響など前分析条件が結果に大きく影響します。
検査の主な目的は高血圧や低カリウム血症の原因鑑別、特に原発性アルドステロン症のスクリーニング、腎血管性高血圧の示唆、体液量評価などで、アルドステロンとの同時測定(アルドステロン/レニン比:ARR)が広く用いられています。
参考文献
- MedlinePlus: Renin test
- ARUP Consult: Aldosterone-Renin Ratio
- StatPearls: Physiology, Renin Angiotensin System
測定法:PRAとDRC、その理論と取り扱い
血漿レニン活性(PRA)は、試験管内でアンジオテンシノーゲンから生成されるアンジオテンシンIの量(通常ng/mL/時)を測る手法で、レニンの機能的活性を反映します。従来はラジオイムノアッセイが用いられましたが、近年は高感度の非放射性法も普及しています。
直接レニン濃度(DRC)は、レニン分子そのものを化学発光免疫測定法などで定量するアッセイで、単位はmU/Lやpg/mLなどが使われます。PRAとDRCは相関しますが、完全に置換可能ではなく、閾値や解釈は別々に設定されます。
前分析要因の管理が極めて重要です。採血前の体位(臥位・立位)、時間帯、食塩負荷の程度、カリウム値、ストレス、さらには利尿薬やACE阻害薬、ARB、β遮断薬、ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬、直接レニン阻害薬など多数の薬剤が結果を変化させます。
アルドステロン/レニン比(ARR)は原発性アルドステロン症のスクリーニングに有用ですが、どのレニン指標(PRAかDRC)を使うかでカットオフ値が異なります。解釈には検査室ごとの手法と基準範囲を必ず参照することが推奨されます。
参考文献
- ARUP Consult: Aldosterone-Renin Ratio
- Endocrine Society Guideline (2016) Primary Aldosteronism
- MedlinePlus: Renin test
解釈と正常範囲の考え方
PRAやDRCの基準範囲は施設・測定法・体位で大きく異なり、例えばPRAは臥位で低め、立位で高めになるのが一般的です。代表的な例として、臥位で約0.2–1.6 ng/mL/時、立位で約1–6 ng/mL/時と記載されることがありますが、これはあくまで一例です。
DRCの例では数mU/Lから数十mU/L程度が報告されますが、単位系や試薬メーカーで差が大きく、施設ごとの基準範囲に従うのが原則です。採血条件のズレや薬剤の影響で偽陽性・偽陰性が生じるため、結果単独ではなく臨床像や他の検査と統合的に判断します。
レニン高値は体液量減少、腎血管性高血圧、利尿薬使用、悪性高血圧、妊娠、高原環境などを示唆し得ます。逆に低値は原発性アルドステロン症、食塩負荷過剰、クッシング症候群、Liddle症候群などでみられます。
原発性アルドステロン症のスクリーニングでは、抑制されたレニンと不適切に高いアルドステロンが鍵となります。確定にはフロセミド立位試験、食塩負荷試験、カプトプリル試験などの機能検査や、副腎静脈サンプリングを要する場合があります。
参考文献
遺伝的要因と環境的要因
REN遺伝子やRAAS関連遺伝子(ACE、AGTなど)の多型は、レニンの発現や機能、さらには血圧表現型に影響を与える可能性があります。ただし、個々の多型の効果は小さく、集団や民族差、測定法の違いに左右されます。
双生児・家系研究では、レニン活性やRAAS関連表現型に中等度の遺伝率(概ね30–60%)が示される報告がある一方、環境要因(食塩摂取、体位、薬剤、腎機能、年齢、ストレス、日内変動など)の寄与が非常に大きいことも繰り返し示されています。
従って「遺伝と環境の比率」を単一の数値で一般化することは困難です。研究設計や対象集団、使われた指標(PRAかDRC)で推定値は大きく変動します。臨床では、まず可変な環境・薬剤要因を整えたうえで評価することが実践的です。
高血圧の遺伝率が30–50%程度とされることを踏まえると、レニン関連指標についても類似のオーダーの遺伝的寄与が推測されますが、個人の検査解釈には直接応用できません。具体的な治療方針は表現型と可変因子への介入を優先します。
参考文献
- Nat Rev Genet: Genetics of blood pressure regulation (Ehret 2010)
- StatPearls: Physiology, Renin Angiotensin System
- Meta-analyses on RAAS gene polymorphisms and hypertension risk (example review)
異常値が示唆されたときの対応
まずは採血条件の是正が重要です。可能なら測定前2週間以上の食塩摂取の安定化、体位と時間帯の標準化、カリウム補正、影響の大きい薬剤の一時中止(主治医判断)を検討し、改めてアルドステロンと併せて測定します。
原発性アルドステロン症が疑われる場合は、ARRスクリーニング後に確定試験を行い、適応があれば画像検査や副腎静脈サンプリングで片側性か両側性かを判断します。治療は手術またはミネラルコルチコイド受容体拮抗薬が選択されます。
レニン高値で腎血管性高血圧が疑われる場合は、腎動脈の画像評価(超音波、CTA、MRAなど)や、体液量評価、薬剤調整を行います。原因に応じて血行再建や内科的治療が検討されます。
妊娠、腎機能低下、重症高血圧など特殊状況では基準範囲や治療選択が異なるため、専門医と連携して個別に最適化することが勧められます。いずれも自分だけで薬を中止・変更せず、主治医の指示に従うことが重要です。
参考文献

