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ラクナ梗塞

目次

定義と概要

ラクナ梗塞は、脳の深部を走る穿通動脈が詰まることで生じる直径およそ15〜20mm未満の小さな皮質下梗塞を指します。好発部位は内包、視床、基底、橋などで、MRI拡散強調画像で小病変として捉えられます。大血管病変や心原性塞栓と異なり、皮質症状が乏しいのが特徴です。

この疾患は「脳小血管病」の代表像で、慢性的な高血圧や糖尿病に伴う細動脈の傷みに起因することが多いとされます。臨床的に症状を伴うものに加え、健康診断や別件での画像検査で偶然見つかる「無症候性ラクナ」も少なくありません。

疫学的には虚血性脳卒中の約2〜3割を占め、東アジアでは歴史的に比率がやや高いと報告されています。高齢化と生活習慣の変化により、その頻度や臨床像は時代と地域で変動します。

用語としての「ラクナ(小空洞)」は病理学的に小さな空洞化を呈することに由来します。Fisherらの古典的研究が概念確立に寄与し、現在は画像的基準を用いた診断が一般的です。

参考文献

症状と臨床像

典型的な「ラクナ症候群」には、純粋運動片麻痺、純粋感覚障害、感覚運動障害、運動失調性片麻痺、構音障害‐不器用手症候群などがあります。失語や半側空間無視など皮質症状は通常目立ちませんが、例外もあります。

発症は突然のことが多く、症状は比較的軽度〜中等度でNIHSSも低値となりがちです。しかし、手指の巧緻性や歩行へ長く影響し、生活や就労に支障をきたすことがあります。

無症候性ラクナや白質病変の蓄積は歩行障害、転倒リスク増大、抑うつ、血管性認知障害の進行と関連します。個々は小さくても総量が機能低下に効いてくる点が重要です。

脳卒中のサイン(顔のゆがみ、腕の麻痺、言葉の障害=FAST)を認めたら、ためらわず119番通報し、発症時刻を把握して救急受診してください。迅速な評価が予後を左右します。

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発生機序(病理)

慢性高血圧により穿通動脈の平滑筋や内皮が傷み、脂肪硝子様変性やフィブリノイド壊死が進行します。これが血管腔を狭め、微小な血栓形成や閉塞を招きラクナ梗塞を起こします。

穿通動脈が母血管から分岐する根部に小さな粥腫が生じて塞がる「microatheroma」や、より広範囲に障害が及ぶbranch atheromatous diseaseも機序として重要です。

血液脳関門の破綻、静脈側の排液不全、周囲の炎症反応など、脳小血管病に共通する要素が画像上の白質高信号や微小出血とともに観察されます。

MRIでは拡散強調像で急性ラクナを、T2/FLAIRで慢性ラクナや白質変性を評価します。微小出血はSWI等で把握し、出血リスク評価や抗血栓療法の選択に役立ちます。

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遺伝因子と環境因子

一般的な(孤発性)ラクナ梗塞の遺伝率はおおむね1〜2割と推定され、生活習慣・環境要因の寄与が大きいと考えられます。多遺伝子リスクは存在しますが、単独での予測力は限定的です。

一方で、NOTCH3変異によるCADASIL、HTRA1変異のCARASIL、COL4A1/2関連疾患など、脳小血管病の家族性疾患ではラクナや白質病変が高頻度に認められます。

環境・生活要因としては高血圧が最大のリスクで、喫煙、糖尿病、慢性腎臓病、睡眠時無呼吸、過剰な食塩摂取、身体不活動、脂質異常などが重なって危険度が増します。

遺伝素因があっても、血圧管理、禁煙、減塩、運動、代謝疾患の治療で発症リスクを大きく下げられます。予防は遺伝よりも「今の習慣」に強く依存します。

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診断・治療・予防

疑う症状があれば、発症時刻を確認し救急でMRIを含む脳画像、血圧・血糖・心電図などを評価します。小病変でも症状との照合が重要で、他の機序の小梗塞との鑑別を行います。

急性期は適応があればアルテプラーゼ静注など再灌流療法を検討します。多くは内科的管理と抗血小板療法、厳格な血圧・血糖管理、脱水回避、早期リハビリが柱です。

二次予防では、長期は単剤抗血小板+高強度スタチン、短期は軽症脳卒中での21日程度の二剤併用が選択肢になります。血圧目標達成と睡眠時無呼吸の治療も有用です。

一次予防としては禁煙、減塩(日本では1日食塩6g未満を目安)、有酸素運動、体重管理、糖脂質代謝の是正が基本です。家族歴が強い場合は専門医に相談してください。

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