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ミネラル代謝障害

目次

概要

ミネラル代謝障害は、カルシウム、リン、マグネシウム、鉄、亜鉛、銅などの体内ミネラルが「摂取・吸収・貯蔵・排泄」のバランスを保てなくなることで生じる状態の総称です。骨、腎臓、腸、肝臓、血液、そして副甲状腺やビタミンD、FGF23などのホルモンが綿密に連携して恒常性を維持しています。どこか一つでも破綻すると、欠乏や過剰が起こり、臓器機能に影響します。

代表的な疾患には、慢性腎臓病に伴うミネラル・骨代謝異常(CKD-MBD)、副甲状腺機能異常によるカルシウム異常、ビタミンD不足や遺伝性疾患によるくる病・骨軟化症、薬剤や消化管疾患による低マグネシウム血症、鉄の過剰や欠乏、銅代謝異常(ウィルソン病)などが含まれます。疾患像は多岐にわたり、急性症状から慢性の骨・血管病変まで広がります。

ミネラルの恒常性は、食事や日光(ビタミンD合成)、腎機能、ホルモン、遺伝背景、薬剤の影響など複数因子の相互作用で成り立ちます。例えば、腎臓はリンを排泄し、骨はカルシウムとリンを貯蔵し、腸は吸収を担います。副甲状腺ホルモン(PTH)や活性型ビタミンDはカルシウムとリンを、FGF23は主にリン代謝を制御します。

人口の高齢化や生活習慣の変化、慢性腎臓病患者の増加、長期薬物療法の普及により、ミネラル代謝障害は臨床で遭遇する頻度が高まっています。適切な診断と介入により、骨折、腎結石、心血管イベント、神経筋症状などの合併症を予防できる可能性があります。患者教育と定期的な検査が重要です。

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主な症状

症状はミネラルや疾患により異なりますが、共通して倦怠感、食欲低下、こむら返り、手足のしびれ、口周りのしびれ、集中力低下などの非特異的な訴えから始まることが多いです。急性の異常では、筋けいれんやテタニー、意識障害、けいれん、致死性不整脈などの重篤な症状が現れることがあります。

骨代謝の異常では、骨痛、背部痛、身長低下、易骨折性、X線での骨脱灰や脊椎の圧迫骨折がみられます。成長期ではくる病(O脚、鳩胸、成長遅延)として現れ、成人では骨軟化症や骨粗鬆症様の症状を呈します。腎結石や腎機能低下もカルシウム・リン代謝異常の合併症として重要です。

電解質の異常は神経・筋に影響します。低カルシウム血症や低マグネシウム血症は筋力低下、痙攣、テタニー、QT延長と不整脈を引き起こし得ます。高カルシウム血症では多尿、口渇、便秘、意識障害、精神症状がみられることがあります。高リン血症は皮膚掻痒や血管・軟部組織の石灰化を促進します。

微量元素の異常も重要です。鉄欠乏では貧血による易疲労、動悸、息切れ、爪の変形などがみられます。銅代謝異常(ウィルソン病)では肝機能障害や神経精神症状が出現します。亜鉛欠乏は味覚障害や皮膚障害、創傷治癒遅延の原因となります。

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発生機序

ミネラル代謝は、摂取(食事・サプリメント)、消化吸収(小腸)、分布(骨・肝・筋)、排泄(腎・消化管・汗)という流れの中で制御されます。これに内分泌系が加わり、PTH、活性型ビタミンD(1,25(OH)2D)、カルシトニン、FGF23が相互に作用して、血中濃度と骨・腎での出入りを調整します。

カルシウム・リン軸では、低カルシウム時にPTHが上昇して骨からの動員と腎での再吸収を促し、活性型ビタミンD産生を高めて腸管吸収を増やします。FGF23はリン上昇時に分泌され、腎でのリン再吸収を抑制し、活性型ビタミンDを低下させます。腎機能低下ではリン排泄が障害され、二次性副甲状腺機能亢進症と骨・血管石灰化が進行します。

薬剤や基礎疾患も機序に影響します。プロトンポンプ阻害薬は腸管のマグネシウム吸収低下を介して低Mg血症を起こし得ます。利尿薬はナトリウム・水分とともにミネラル排泄を変化させ、ループ利尿薬で低Ca/低Mg、サイアザイドで高Caなどが起こります。消化管手術や炎症性腸疾患では吸収不全が問題になります。

遺伝的機序としては、PHEXやFGF23の異常によりリン喪失型の低リン血症性くる病が起こり、CASR変異では副甲状腺のCa感受性が変わり家族性低カルシウム尿性高Ca血症を来します。鉄ではHFE変異によりヘプシジン調節が破綻し、吸収過剰(遺伝性ヘモクロマトーシス)が生じます。

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診断と検査

診断は病歴と身体診察に加え、血液・尿検査を組み合わせます。血清カルシウム(補正/イオン化)、リン、マグネシウム、アルカリホスファターゼ、クレアチニン(推算GFR)、25(OH)D、1,25(OH)2D、副甲状腺ホルモン(PTH)などが基本です。必要に応じてフェリチンやトランスフェリン飽和度、銅・セコロプラスミン、亜鉛も評価します。

尿検査では、スポット尿や24時間尿でのCa/Cr、リン排泄量、マグネシウム排泄を確認し、腎性の喪失かどうかを判断します。腎結石の既往があれば尿量やクエン酸、尿pHなどの評価も行います。

画像検査は骨密度測定(DXA)や単純X線、骨スキャン、腎エコーなどが用いられます。CKD-MBDでは血管石灰化の評価が治療方針の参考になることがあります。

遺伝性疾患が疑われる場合は家族歴と発症年齢、臨床像を踏まえ、対象遺伝子(PHEX、FGF23、SLC34A3、CASR、HFE、ATP7B など)の遺伝学的検査を考慮します。結果は遺伝カウンセリングと併せて解釈します。

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治療と予防

治療は原因の是正が基本です。食事やサプリでの不足補充、吸収不全や薬剤性の是正、内分泌異常や腎疾患の治療を行います。急性の重篤な電解質異常は静注補正と心電図モニタリングが必要です。慢性疾患では目標値を設定し、段階的に介入します。

CKD-MBD では、リン制限、リン吸着薬、活性型ビタミンD製剤、カルシミメティクス(シナカルセト等)を適切に用い、副甲状腺機能の過剰亢進を抑えます。骨折リスクに応じて抗骨吸収薬や骨形成薬を検討しますが、Ca・Pコントロールと併用のバランスが重要です。

遺伝性低リン血症(XLHなど)では、従来のリン補充と活性型ビタミンDに加え、抗FGF23抗体(ブロスマブ)などの分子標的治療が利用可能です。低副甲状腺機能症にはCaと活性型ビタミンD、難治例でPTH製剤が用いられます。ヘモクロマトーシスでは瀉血、ウィルソン病では銅キレートや亜鉛療法が標準です。

予防には、バランスのよい食事、適度な日光曝露、腎・消化管疾患や長期内服薬の定期チェック、アルコールの節度、運動と骨の健康維持が有効です。ハイリスク群(CKD、消化管手術後、長期PPIや利尿薬内服)は定期的な血液検査と医療者への相談を心がけましょう。

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