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ミエロペルオキシダーゼ(MPO)血清濃度

目次

MPOの概要

ミエロペルオキシダーゼ(MPO)は好中球や単球の顆粒に多く含まれるヘム酵素で、過酸化水素と塩化物イオンから次亜塩素酸(HOCl)などの強力な酸化剤を産生します。これにより微生物を迅速に殺傷できる一方、過剰活性は宿主組織の酸化ストレスや炎症増悪にも関与します。

血清や血漿中のMPOは、循環中での好中球活性化や脱顆粒の指標とみなされます。急性冠症候群、慢性心不全、慢性腎臓病、自己免疫疾患、感染症など多様な病態で上昇が報告されていますが、疾患特異性は高くありません。

MPOは免疫学・循環器学双方で注目され、基礎研究では活性中心の化学や生成酸化物の標的(脂質、蛋白、酸)の解明、臨床研究では予後予測やリスク層別化マーカーとしての有用性が検討されてきました。

一方で、MPOの臨床的解釈には測定法、前処理条件(血清かEDTA血漿か、処理までの時間など)、併存炎症の有無など多くの交絡因子への配慮が不可欠で、単独で診断を確定する用途には適しません。

参考文献

測定と前解析の要点

MPOは主に二系統で測定されます。ひとつは免疫測定(ELISAや化学発光)で、MPO蛋白量(質量濃度)を特異抗体で定量する方法です。もうひとつはペルオキシダーゼ活性測定で、過酸化水素存在下で基質が酸化される速度を吸光・蛍光で追跡します。

血清は採血・凝固過程で好中球からMPOが放出されやすく、in vitroの上昇が起こり得ます。臨床リスク評価目的では、EDTA血漿を速やかに分離・凍結するプロトコルがしばしば推奨されます。

測定系や単位は試薬・装置によって異なり、質量(ng/mL)で報告されるものと、モル濃度(pmol/L)や活性単位で報告されるものがあります。したがって施設ごとの基準範囲と同一法での経時追跡が重要です。

活性測定は酵素の阻害剤、pH、塩化物濃度の影響を強く受けます。免疫測定は不活化酵素も捉える一方で、ヘテロフィル抗体などによる干渉の管理が必要になります。各法の長所短所を理解して目的に応じた選択が求められます。

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生物学的役割

MPOは呼吸爆発で生じる過酸化水素を利用し、塩化物・臭化物を基質として次亜塩素酸や次亜臭素酸を生成します。これらは細菌の細胞壁やDNA、蛋白質を酸化・塩素化して殺菌作用を示します。

一方で、MPO由来の酸化物は宿主の脂蛋白やプロテオグリカンを修飾し、LDLの酸化、HDLの機能低下、NOの不活化などを通じて内皮機能障害・アテローム形成に寄与することが示されています。

好中球細胞外トラップ(NETs)形成にもMPOは関与し、血栓形成や自己免疫反応の増幅と関連します。MPO欠損症では真菌感染(とくにカンジダ)への易感染が知られますが、多くは無症候です。

このようにMPOは「感染防御に必須」かつ「慢性炎症・動脈硬化を促進し得る」二面性をもつため、生理的な制御が破綻すると多様な疾患でバイオマーカーや治療標的となり得ます。

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臨床的意義と解釈

循環中のMPO上昇は、好中球活性化・酸化ストレスの亢進を反映します。急性冠症候群の救急外来患者で、MPO高値が短期・長期転帰不良と関連することが報告され、心血管リスク層別化に役立つ可能性があります。

慢性心不全、末期腎不全、COPD、敗血症、自己免疫疾患(ANCA関連血管炎など)でも高値となり得ます。ただしANCA検査でのMPOは自己抗体(MPO-ANCA)であり、酵素濃度測定とは別概念である点に注意が必要です。

喫煙、肥満、糖尿病などの生活習慣要因はMPOのベースラインを押し上げることがあるため、単回測定よりも臨床状況・他の炎症マーカー(CRPなど)・再検データと合わせて判断します。

検査の有用性は「非特異的炎症の指標」としての側面が強く、特定疾患の診断確定には用いず、心血管・炎症リスクの補助情報として位置づけるのが実践的です。

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基準範囲と遺伝・環境因子

MPOの基準範囲は測定法と検体に依存します。たとえばEDTA血漿でのCardioMPO法ではおおむね<470 pmol/Lが低リスク帯と示されますが、ELISAでの血清ng/mL表示などとは互換性がありません。

血清は凝固過程で外因性に上昇しやすいため、経時モニタリングやリスク評価では同一マトリクス・同一法で比較することが推奨されます。施設固有の参照区間を必ず参照してください。

遺伝的にはMPOプロモーターの-463G>A(rs2333227)多型が発現量・酵素活性の低下と関連する機能多型として知られており、冠動脈疾患リスクとの関連も報告がありますが、効果量は中等度以下です。

一方、喫煙、急性感染、慢性炎症、腎機能低下、肥満などの環境・生理的因子の影響は大きく、血中MPOの個体差は遺伝よりも環境・病態依存性が強いと考えられます。遺伝と環境の厳密な寄与率は現時点で確立していません。

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