ヘモグロビン濃度
目次
基本概念と定義
ヘモグロビン濃度は、血液中に含まれる酸素運搬タンパク質であるヘモグロビンの量を示す指標で、通常 g/dL で表されます。赤血球の機能を反映し、全身への酸素供給状態を把握するための最も基本的な検査項目です。低ければ貧血、高ければ多血や脱水などが疑われ、臨床判断の起点になります。
ヘモグロビンはヘム(鉄を含むポルフィリン)とグロビンタンパクから構成され、酸素と可逆的に結合します。この結合能はpH、二酸化炭素、体温、2,3-BPGなどに影響され、酸素解離曲線として表現されます。濃度は赤血球数と平均赤血球ヘモグロビン量の積に近い関係を持ちます。
測定されたヘモグロビン濃度は、生理的変動(姿勢、運動、日内変動、月経、妊娠)や環境因子(高度、喫煙、脱水)で上下します。したがって単回測定では限界があり、臨床状況と併せた解釈、必要に応じた再検が重要です。
臨床現場ではヘモグロビン濃度は全血球計算(CBC)の一部として自動分析装置で同時測定されます。救急や在宅ではポイントオブケア機器で迅速測定が可能で、重症度評価や輸血適応判断に役立ちます。
参考文献
正常範囲と臨床的解釈
成人の一般的な参考範囲は男性でおよそ13.0–17.0 g/dL、女性で12.0–16.0 g/dLです。年齢や機関により基準は異なり、小児や妊娠では別基準が用いられます。WHOは貧血の診断に国際的なカットオフを提示しており、妊娠や標高に応じた補正も推奨しています。
低値は鉄欠乏、慢性炎症、腎不全、出血、溶血、ビタミンB12/葉酸欠乏、骨髄疾患など多岐の原因があり、平均赤血球容積(MCV)や鉄関連検査を併用して原因を絞り込みます。高値は脱水、低酸素環境適応、喫煙、多血症などを示唆します。
数値の解釈では検体の取り扱い(希釈、溶血)、体液量の変化(点滴、妊娠の血漿増加)、急性出血直後の見かけ上の正常化など、測定・生理学的注意点を理解する必要があります。単独では診断に至らず、臨床症状や他の血算指標と総合判断します。
持続的異常では再検や追加検査(網赤血球、フェリチン、トランスフェリン飽和度、クレアチニン、炎症マーカー、電気泳動など)を検討します。著明な低値や症状を伴う場合は緊急対応や輸血適応の評価が必要です。
参考文献
影響因子:遺伝と環境
ヘモグロビン濃度には遺伝的素因と環境要因がともに関与します。双生児研究や大規模ゲノム解析から、赤血球関連形質の遺伝率は概ね中等度で、集団や年齢で変動します。多遺伝子の累積効果が主で、一部に大きな効果を持つ変異も知られます。
環境要因としては鉄やビタミン摂取、感染や慢性炎症、腎機能、喫煙、居住標高、妊娠、脱水や持久的運動などが挙がります。特に鉄欠乏は世界的に最も頻度の高い可逆的低下原因で、公衆衛生上の介入対象です。
遺伝と環境の相互作用も重要です。例えば鉄代謝遺伝子の多型は同じ食事でもヘモグロビンの反応性を変えます。高地適応に関わるEPAS1などの変異は環境低酸素に対するヘモグロビンの上昇反応を修飾します。
一般にヘモグロビン濃度の遺伝率はおよそ30–60%の範囲が報告され、残りは環境と測定誤差が占めます。個人診療では“変えられる要因”(栄養、疾患、生活習慣)への介入が最優先です。
参考文献
- Astle et al., Nature 2016: The allelic landscape of human blood cell trait variation and disease
- Vuckovic et al., Cell 2020: The Polygenic and Monogenic Basis of Blood Traits and Diseases
健康上の意義と異常時の対応
ヘモグロビンは組織への酸素供給を担うため、低下は疲労、息切れ、動悸、集中力低下、冷え、頭痛などの症状を引き起こします。重度では胸痛、失神、心不全増悪など生命に関わる合併症もあります。
原因が鉄欠乏であれば、出血源の検索(消化管、婦人科)とともに鉄補充が基本です。慢性腎臓病ではエリスロポエチン製剤が検討されます。ビタミンB12/葉酸欠乏では補充療法、溶血や骨髄疾患では専門的治療が必要です。
高値の場合は脱水の補正、喫煙対策、高地適応の評価、持続する場合は真性多血症などの鑑別が求められます。適切な診断のためには血算の他、エリスロポエチン、酸素飽和度、JAK2変異などの追加検査を行うことがあります。
異常値の初回検出では、測定誤差や一過性変動を除外するため再検が有用です。症状が強い、著明な逸脱、基礎疾患の存在が疑われる場合には速やかな医療機関受診が推奨されます。
参考文献
測定法と理論
標準的な測定は比色法で、赤血球中のヘモグロビンを薬剤で変換して光吸収を測定します。歴史的にはシアンメトヘモグロビン法が標準でしたが、有害性の観点からシアンを用いないSLS-Hb法などが主流です。
自動血球計数装置では、溶血後に特定波長での吸光度を測定し、既知濃度の校正曲線から濃度を算出します。検体の脂質血症、白血球増多、異常ヘモグロビンなどは干渉となることがあり、装置の補正アルゴリズムや検査室の品質管理が重要です。
ポイントオブケア機器(例:HemoCue)は微量血で迅速測定が可能で、救急や資源制約環境で有用です。ICSHは試薬・機器の性能評価と外部精度管理の実施を推奨しています。
測定の精度は輸血や治療判断に直結するため、国際標準に基づく校正、内部・外部精度管理、希釈・凝集の回避、採血条件の標準化が不可欠です。
参考文献

