ヘマトクリット
目次
定義と基本概念
ヘマトクリット(hematocrit, Hct)は、全血液量に占める赤血球の体積割合を示す指標で、通常は百分率(%)で表されます。例えばヘマトクリットが45%であれば、血液の体積のうち45%が赤血球、残りが血漿や白血球・血小板などという意味になります。赤血球は酸素運搬の主役であり、ヘマトクリットは酸素運搬能力と血液粘度の双方に直結するため、臨床でも生理学でも重要な数値です。
ヘマトクリットはしばしば「ヘモグロビン濃度(Hb)」と併せて評価され、ヘモグロビン(g/dL)のおおよその3倍がヘマトクリット(%)に相当するといった経験則が使われることがあります。ただし、この換算は個人差や状態(平均赤血球容積や水分状態など)によりずれるため、絶対視はできません。
ヘマトクリットは加齢、性別、居住高度、喫煙、妊娠、脱水や輸液など多数の要因で変動します。したがって単一の基準値で機械的に解釈するのではなく、患者背景や採血条件、他の血算項目(赤血球数、平均赤血球容積、網赤血球など)と総合して判断することが大切です。
臨床的には、ヘマトクリットの低下は貧血や出血、溶血、希釈、腎性エリスロポエチン低下などを示唆し、高値は脱水や慢性低酸素、真性多血症などの骨髄増殖性腫瘍、二次性多血などを示す可能性があります。異常値はあくまで「兆候」であり、原因精査が不可欠です。
参考文献
測定法と理論
ヘマトクリットの古典的測定は微量ヘマトクリット法(packed cell volume; PCV)で、毛細管に抗凝固血を取り高速遠心して赤血球層体積の割合を読み取ります。これは直接的な体積比測定ですが、赤血球間にわずかな血漿が取り込まれる「トラップドプラズマ」により数%の過大評価が生じうることが知られています。
現在の多くの臨床検査室では自動血球計数装置を用い、赤血球数(RBC)と平均赤血球容積(MCV)からヘマトクリットを計算します。代表的には Hct(%) ≒ RBC(×10^12/L) × MCV(fL) / 10 という関係が用いられ、連続的で再現性の高い測定が可能です。
採血条件は結果に影響します。長時間駆血や体位変換、脱水、点滴の希釈、標本の凝集、採血後の放置時間や温度などが誤差要因です。毛細血管血と静脈血でも値が異なりうるため、同一条件での追跡が望まれます。
測定法の違いは解釈にも影響するため、同一個人で経時的に評価する際は同じラボ・同じ装置での測定が理想です。異常値が出た場合には再検や別法での確認が行われることがあります。
参考文献
生理学的意義
ヘマトクリットは血液の酸素運搬能力の重要な規定因子です。赤血球の割合が高まれば単位容積あたりのヘモグロビン総量が増え、動脈血酸素含量が上昇します。一方で、ヘマトクリットが上がると血液粘度も上昇し、流れにくくなるため、心血管系への負荷や微小循環での灌流低下を招きやすくなります。
このため酸素供給はヘマトクリットと非線形な関係をもち、極端に低い場合も高い場合も組織酸素デリバリーは低下します。高地適応や持久運動の文脈では、ヘマトクリットの最適範囲が議論されており、過度な増加はパフォーマンスの低下や血栓リスク上昇につながることが知られています。
慢性閉塞性肺疾患や睡眠時無呼吸などの慢性低酸素状態では、腎臓からのエリスロポエチン分泌が増加し、赤血球産生が亢進してヘマトクリットが上昇します。逆に慢性腎臓病ではエリスロポエチン不足によりヘマトクリットが低下しやすくなります。
妊娠では血漿量の増加が赤血球量の増加を上回るため生理的希釈(ヘモジルーション)が起こり、ヘマトクリットが低下します。これ自体は適応現象ですが、鉄欠乏などが重なると貧血が顕在化しやすくなるため注意が必要です。
参考文献
- Physiological Reviews: Microvascular Blood Viscosity and Hematocrit (Pries & Secomb, 2005)
- Cleveland Clinic: Hematocrit (Hct) Test
異常値と原因
ヘマトクリット低値は、鉄欠乏性貧血、慢性腎臓病、出血、溶血、骨髄不全、慢性炎症、栄養不良、甲状腺機能低下症など多彩な原因で起こります。臨床ではCBCに加え、鉄・フェリチン、網赤血球、腎機能、ビタミンB12/葉酸、甲状腺機能などを組み合わせて原因を絞り込みます。
ヘマトクリット高値は、脱水や利尿薬使用での相対的増加のほか、喫煙や高地居住、慢性肺疾患、睡眠時無呼吸、右左シャント、エリスロポエチン分泌腫瘍などの二次性多血が原因となることがあります。
真性多血症(polycythemia vera)はJAK2変異を伴う骨髄増殖性腫瘍で、エリスロポエチン非依存的に赤血球が増える疾患です。血栓リスクが高いため、瀉血や低用量アスピリン、サイトレダクションなどが行われます。
異常値が出た場合は再検で確認したうえで、症状の有無・急性か慢性か・他の血算異常の併存・背景疾患などを踏まえて精査方針を決めます。重篤な症候(息切れ、胸痛、意識障害など)がある場合は緊急対応が必要です。
参考文献
基準範囲と解釈のポイント
成人の一般的な基準範囲は、男性で約41–50%、女性で約36–44%とされますが、検査室や集団によって差があります。子どもは年齢で大きく変動し、高地居住者や喫煙者では高めに出る傾向があります。
妊娠では希釈により低めとなるのが生理的です。したがって妊婦のヘマトクリット評価は妊娠週数に応じた参照範囲で行う必要があります。
ヘマトクリットの一過性の変動は、脱水や輸液、激しい運動、長時間の駆血、体位変換(座位→臥位)などでも生じます。解釈の前には採血条件の確認が重要です。
ヘマトクリット単独では十分な情報が得られないことも多く、ヘモグロビン、赤血球数、MCV、RDW、網赤血球、白血球・血小板などと統合して診断推論を行います。
参考文献

