フォリスタチン(FS)血清濃度
目次
- フォリスタチン(FS)血清濃度の概要
- フォリスタチン(FS)血清濃度の遺伝的要因と環境的要因の比率(%)
- フォリスタチン(FS)血清濃度を調べる意味
- フォリスタチン(FS)血清濃度の数値の解釈
- フォリスタチン(FS)血清濃度の正常値の範囲
- フォリスタチン(FS)血清濃度が異常値の場合の対処
- フォリスタチン(FS)血清濃度を定量する方法とその理論
- フォリスタチン(FS)血清濃度のヒトにおける生物学的な役割
- フォリスタチン(FS)血清濃度に関するその他の知識
フォリスタチン(FS)血清濃度の概要
フォリスタチン(Follistatin, FS)は、主にアクチビンやミオスタチンなどTGF-βスーパーファミリーのシグナルを中和する分泌性糖タンパク質で、血中には主にFS315アイソフォームが存在します。肝臓や生殖器、骨格筋、脂肪組織を含む多くの臓器で産生され、全身の内分泌・傍分泌ネットワークに関与します。
血清中のFS濃度は、組織産生量、プロテアーゼによる分解、結合タンパク質との相互作用、腎・肝クリアランスなどで決まり、妊娠、月経周期、炎症・感染、運動、栄養状態、肝機能などで変動します。測定にはELISA等の免疫測定法が広く使われ、測定系により絶対値が異なる点に注意が必要です。
FSはアクチビンの受容体結合を阻害することで下垂体-性腺軸や炎症反応、線維化、代謝にも影響します。特に筋量調節ではミオスタチンやGDF11の作用拮抗因子として知られ、骨格筋や代謝疾患研究でも注目されています。こうした生理機能の広がりが血清FS濃度の解釈を複雑にします。
臨床研究では、妊娠関連疾患、肝疾患、代謝異常、筋疾患、自己免疫・線維化疾患などで血清FSの変化が報告されています。ただし、単独で確立した診断マーカーとして普遍的に用いられているわけではなく、文脈依存で他の指標と併用されることが多いのが現状です。
参考文献
- Follistatin (UniProt P19883)
- Follistatin - Wikipedia
- TGF-β family signalling: context, dynamics and disease (Nat Rev Mol Cell Biol 2016)
フォリスタチン(FS)血清濃度の遺伝的要因と環境的要因の比率(%)
FS濃度に対する厳密な遺伝率(遺伝的要因の寄与割合)を直接推定した双生児研究・GWASは限られており、現時点で普遍的に受け入れられた%値は提示されていません。FST遺伝子の発現調節やスプライシング、関連経路の多型が影響しうる一方、測定系の差や対象集団の異質性が推定を難しくしています。
一方で環境・生理要因の影響は実臨床・生理学研究で明瞭です。妊娠や月経周期、急性・慢性炎症、肝機能障害、インスリン抵抗性、身体活動(特に抵抗運動)、栄養状態、サーカディアンリズムなどがFS濃度を変動させることが示唆されています。
遺伝と環境の比率を数値化できない場合でも、個人内・個人間変動の要因を整理することは実用的です。測定時の絶食・採血時刻・月経周期・妊娠の有無・併存症・薬剤の情報を揃えることで、環境要因による揺らぎをある程度コントロールできます。
総じて、現時点では「遺伝要因の寄与は不明確、環境・生理学的要因の寄与は大きい」という実務的結論が妥当です。今後、標準化された測定と大規模コホートにより、FS濃度の遺伝率推定が洗練されることが期待されます。
参考文献
- GeneCards: FST Gene (Follistatin)
- Human Protein Atlas: FST
- Myokines and exercise: A review (Frontiers in Physiology)
フォリスタチン(FS)血清濃度を調べる意味
FSはアクチビンやミオスタチンの生物活性を中和するため、測定することで、性腺機能、筋量調節、炎症・線維化、代謝制御に関わるシグナルの「抑制側」の状態を間接的に把握できます。特定疾患の診断単独マーカーではないものの、病態の理解や研究補助、リスク層別化に役立ちます。
妊娠合併症(例:前妊娠高血圧腎症)や月経・不妊領域では、アクチビン/インヒビン/FS軸のバランスが注目され、パネル測定の一部としてFSが検討されます。肝疾患・腫瘍領域では、肝由来FS315が上昇する報告があり、他のバイオマーカーと併用で病勢評価に資する可能性があります。
運動・リハビリ・サルコペニア研究では、FSとミオスタチンの比(F/M比)が筋タンパク同化・異化の傾向を示す補助指標として探索されています。生活習慣病ではインスリン抵抗性や脂肪組織炎症との関連も示唆され、介入効果の評価に用いられます。
臨床で測定する場合は、目的を明確化し、他のホルモン・炎症マーカー・画像や機能検査と組み合わせた解釈が不可欠です。研究的使用が中心であり、健康診断の一般スクリーニングとして routine に測る項目ではない点に留意します。
参考文献
- Activins, Inhibins and Follistatins in human reproduction (Endocrine Reviews)
- The activins and their binding protein, follistatin — roles in inflammation and fibrosis (Review)
- Follistatin (UniProt P19883)
フォリスタチン(FS)血清濃度の数値の解釈
FSの解釈では、測定法(どのアイソフォームに感度が高いか、交差反応、キャリブレータの由来)、採血条件(空腹・時間帯)、生理状態(性別、年齢、妊娠、月経周期)、併存症(肝・腎機能、炎症)を必ず考慮します。これらにより絶対値は大きく変わり得ます。
一般に、FS高値は肝臓由来産生の増加、炎症・組織修復の活性化、妊娠関連変化、あるいは筋同化方向の刺激に伴う一過性上昇などと整合することがあります。一方、低値は測定系の問題、極端な栄養不良、重度の肝不全などを鑑別に挙げます。
病態特異性は高くないため、アクチビンA/B、インヒビン、CRPやフェリチン等の炎症マーカー、肝機能検査、筋量・筋力評価などと併せて「パターン」として読むことが重要です。単独の閾値で診断を下すことは推奨されません。
縦断的に同一個人で同一法を用いたトレンド追跡は解釈価値を高めます。介入前後の変化量(ΔFS)やF/M比の変化は、個体内での生理的反応の指標になり得ますが、臨床意思決定の最終根拠には他所見の裏付けが必要です。
参考文献
- What is ELISA? (R&D Systems)
- CLSI EP28-A3c: Reference Intervals
- TGF-β family signalling (Nat Rev Mol Cell Biol 2016)
フォリスタチン(FS)血清濃度の正常値の範囲
FSの参照範囲は測定キットや施設で大きく異なり、国際標準化も未確立です。したがって「普遍的な正常値」は定義できません。各検査室は使用法に基づいて健常集団で自施設参照区間を設定することが推奨されています。
市販ELISAの添付文書では、健常成人血清・血漿の中央値が数百〜数千pg/mL(0.5〜5 ng/mL程度)と報告されることがありますが、これは一例であり、対象・検体処理・抗体特異性で広く動きます。必ず同一法の参照範囲を確認してください。
性別、年齢、妊娠、月経周期で参照範囲が分かれる可能性があり、特に妊娠中は胎盤・母体の内分泌変化によりFS関連分子が大きく変動します。比較は同じ生理状態の群に対して行う必要があります。
参照範囲の設定はCLSI EP28-A3cの推奨に従い、適切なサンプルサイズと外れ値処理、分層(例:年齢・性別)を行うのが望ましいです。個人の結果を評価する際も、この原則に沿ったラボの範囲を用いるべきです。
参考文献
- CLSI EP28-A3c: Defining and Verifying Reference Intervals
- Human Follistatin Quantikine ELISA (product overview)
- Follistatin - Wikipedia
フォリスタチン(FS)血清濃度が異常値の場合の対処
まず再現性の確認が重要です。採血条件の統一、溶血・凍結融解など前分析的要因の見直し、同一測定法での再検、必要に応じ別法での確認を行います。単回の外れ値で過度な判断を避け、臨床症状や他検査と照合します。
高値で肝機能障害や炎症所見が伴えば、肝疾患の評価(肝機能、画像、ウイルス・自己免疫検査等)や原疾患の治療が優先されます。妊娠・産科領域では、他の胎盤由来マーカーや臨床所見と合わせて産科的リスク管理を検討します。
運動や栄養介入後の一過性変動は生理的反応として矛盾しませんが、持続する変動や臨床症状を伴う場合は、内分泌・肝胆膵・リウマチ膠原病・腫瘍内科など適切な専門診療科への相談が有用です。自己判断でサプリや未承認のFS関連製品を使用することは推奨されません。
治療・介入は原疾患・病態の是正が中心で、FS自体を直接増減させる医薬品は確立していません。臨床試験レベルでは、抗ミオスタチン/促同化戦略でFS軸が関与しますが、安全性・有効性評価の段階にあり、一般診療での使用は想定されていません。
参考文献
- The activins and follistatin in inflammation and fibrosis (Review)
- Human Protein Atlas: FST expression in liver
- Clinical use and limitations of ELISA assays (Overview)
フォリスタチン(FS)血清濃度を定量する方法とその理論
臨床・研究で最も一般的なのはサンドイッチELISAです。捕捉抗体でFSを固相に捕捉し、別のエピトープを認識する検出抗体を結合、酵素反応の発色/発光強度と既知濃度の標準曲線から濃度を算出します。高感度化には化学発光法や電気化学発光法が用いられます。
理論上、抗体の特異性(FS315/FS288の識別、FSTL3等との交差反応)、マトリックス効果(血清/血漿差、希釈直線性)、フック効果、キャリブレータのトレーサビリティが精度を左右します。希釈回収試験やスパイク回収で妥当性を評価します。
代替法として、質量分析(選択的プロテオミクス)によるターゲットペプチド定量や、免疫沈降-質量分析のハイブリッド法が報告されています。これらは同位体標識内部標準を用いて、アイソフォームや結合状態の影響を減らしうる利点があります。
前分析的には、採血管(EDTA/ヘパリン/血清)、遠心・保存温度、凍結融解回数、溶血の有無が結果に影響します。測定手順の標準化、外部精度管理プログラム参加、Lot間差の管理が信頼性確保に重要です。
参考文献
- What is ELISA? Principles, methods and applications (R&D Systems)
- The ELISA Guidebook (Springer)
- Mass spectrometry–based protein quantification (Review)
フォリスタチン(FS)血清濃度のヒトにおける生物学的な役割
FSはアクチビンA/B、ミオスタチン、GDF11などに結合して受容体活性化を阻害し、下垂体FSH分泌、卵胞発育、子宮内膜機能など生殖生理を調節します。胎盤・卵巣・子宮におけるFSの発現は、妊娠・月経周期で大きく変動します。
骨格筋ではミオスタチン拮抗により筋タンパク同化を促進する方向に働き、筋量維持・再生に関与します。運動時の一過性のFS上昇は、筋適応の一部を反映する可能性があり、サルコペニアやリハビリ領域での関心が高まっています。
炎症・線維化では、アクチビンシグナルの抑制を介して免疫細胞や線維芽細胞の機能に影響し、感染・組織修復・慢性線維化の制御に関与します。過剰・不足のいずれも病態を悪化させうるため、バランスが重要です。
代謝領域では、脂肪組織・肝臓でのFS発現がインスリン感受性、脂質代謝、非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)などと関連する報告があります。ヒトでの因果関係は限定的ですが、動物・前臨床データと整合的に探索が進んでいます。
参考文献
- Regulation of muscle mass by myostatin (Annual Review)
- Activins, Inhibins and Follistatins in human reproduction (Endocrine Reviews)
- Follistatin - Wikipedia
フォリスタチン(FS)血清濃度に関するその他の知識
FSには主にFS288とFS315のアイソフォームがあり、FS288は組織結合性が高く局所作用、FS315は末端糖鎖が付与され循環に乗りやすいとされます。測定系によって両者の感度が異なるため、結果の比較には注意が必要です。
FST遺伝子は5番染色体に位置し、プロモーター領域・スプライシング制御・miRNAなど多層的な発現調節を受けます。PCOSなどとの関連が検討された時期もありますが、一貫した遺伝的関連は限定的で、表現型多様性や環境要因の寄与が大きいと考えられます。
スポーツ・筋肥大文脈でFSを増やすサプリ・遺伝子療法を謳う情報がありますが、ヒトでの有効性・安全性は確立していません。未承認介入は重大な副作用の恐れがあり、推奨されません。医療の枠組みで検証された介入のみ選択すべきです。
今後、標準化測定、縦断コホート、因果推論(メンデル無作為化)などの方法論が進めば、FSの病態関連と臨床応用の位置づけがより明瞭になると期待されます。現状は研究的バイオマーカーとしての性格が強いと言えます。
参考文献

