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ビリルビン排泄障害

目次

基本概念と分類

ビリルビン排泄障害とは、体内で生じたビリルビンが肝細胞から胆汁へ適切に排出されない、あるいは肝への取り込みが低下して血中に滞る状態の総称です。黄疸の原因の一つで、抱合後(直接型)ビリルビンの上昇を伴うことが多く、胆汁うっ滞を含む幅広い病態を内包します。先天性の体質性黄疸から、薬剤性、炎症性、閉塞性まで多彩です。

ビリルビン代謝は、赤血球のヘモグロビンが分解されて非抱合ビリルビンとなり、肝で取り込まれ、UGT1A1により抱合され、MRP2(ABCC2)を介して胆汁中に排泄される流れで理解されます。排泄障害は主に、取り込み輸送体(OATP1B1/1B3)や胆管側排出輸送体(MRP2/BSEP)機能の低下と関連します。

臨床的には、先天性のDubin–Johnson症候群(ABCC2異常)やRotor症候群(SLCO1B1/1B3異常)が代表的です。これらは一般に良性で、慢性的な直接型優位の軽度高ビリルビン血症を呈します。一方、薬剤性胆汁うっ滞や妊娠性肝内胆汁うっ滞、胆道閉塞などは可逆性や緊急性が異なり、臨床対応も多様です。

この領域は「ビリルビン代謝異常」の枠組みの中で、産生過剰や抱合障害と区別されます。排泄障害に該当するかどうかは、血液検査での直接型/間接型の比率、胆道系酵素(ALP、γ-GT)、尿中ビリルビンの有無、画像所見など複合的な評価で判断されます。

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代表的な症状

主症状は皮膚や眼球結膜の黄染(黄疸)で、直接型高ビリルビン血症が主体のことが多いです。痒み(掻痒)は特に胆汁酸貯留を伴う胆汁うっ滞で目立ち、夜間に増悪することがあります。尿の濃染(ビリルビン尿)や便色の淡色化がみられる場合もあります。

Dubin–JohnsonやRotor症候群はしばしば無症状で、健康診断や妊娠中、感染時、薬剤投与後などのきっかけで黄疸に気づかれることがあります。全身倦怠感や軽度の不快感のみで経過することもあり、肝機能酵素は通常軽度変動にとどまります。

閉塞性黄疸や重度の胆汁うっ滞では、脂溶性ビタミン吸収不良による出血傾向、骨症状、夜盲、脂肪便などが出現することがあります。発熱や右上腹部痛を伴う場合は胆管炎などの緊急性疾患が疑われ、迅速な対応が必要です。

新生児期の直接型高ビリルビン血症は、胆道閉鎖症や新生児肝炎など重篤な原因を含むため早期鑑別が重要です。光線療法は主に間接型黄疸に有効であり、直接型優位の黄疸では効果が乏しく、原因精査が優先されます。

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発生機序

ビリルビンはアルブミンと結合して肝細胞へ運ばれ、OATP1B1/1B3(SLCO1B1/1B3)などの取り込み輸送体で細胞内へ入ります。細胞内ではUGT1A1により抱合され水溶化され、管腔側膜のMRP2(ABCC2)から胆汁中へ排出されます。これらの輸送体や酵素の異常は各段階で血中蓄積を来します。

Dubin–Johnson症候群ではMRP2の機能不全により抱合ビリルビンが胆汁へ十分に排出できず、血中に再流出します。肝の色素沈着が特徴ですが予後は良好です。Rotor症候群ではOATP1B1/1B3の両方の機能欠損により、取り込みと再取り込みが障害され、直接型優位の高ビリルビン血症をきたします。

薬剤性胆汁うっ滞では、エストロゲン、アナボリックステロイド、抗生物質、免疫抑制薬などがBSEPやMRP2、OATP群の機能を阻害または遺伝子発現を変化させます。これにより胆汁酸輸送が滞り、二次的に抱合ビリルビンも上昇します。

閉塞性病変(胆石、腫瘍、狭窄)は胆汁流出路の機械的遮断を引き起こし、上流側の胆管圧が上昇し胆汁成分の逆流・停滞を招きます。炎症や敗血症、妊娠など生理的変化も胆汁酸輸送や肝血流に影響し、排泄障害を一過性に悪化させることがあります。

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遺伝的要因

先天性のビリルビン排泄障害として、Dubin–Johnson症候群(ABCC2遺伝子変異)とRotor症候群(SLCO1B1/SLCO1B3の二重欠損)が代表的です。いずれも常染色体劣性遺伝で、幼少期から若年成人にかけて発見されることがあります。

ABCC2は胆管側膜の多剤耐性関連蛋白(MRP2)をコードし、抱合ビリルビンや有機アニオンの排出に関与します。機能喪失変異により管腔側への排出が障害され、直接型ビリルビンが蓄積します。肝以外の重篤な合併症は稀で、予後は良好です。

Rotor症候群では肝取り込み輸送体OATP1B1およびOATP1B3をコードするSLCO1B1/SLCO1B3の両方に病的変異が存在します。これによりヘパトサイトへのビリルビン取り込みや胆汁中への再分配が妨げられ、血中直接型ビリルビンが上昇します。

他に胆汁酸輸送体ABCB11(BSEP)などの変異は家族性胆汁うっ滞を来し、二次的に直接型高ビリルビン血症を伴います。これらは発育不良や脂溶性ビタミン欠乏を伴い、Dubin–JohnsonやRotorと臨床像が異なることが多いです。

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環境的要因と薬剤

薬剤はビリルビン排泄障害の重要な可逆的要因です。エストロゲン含有製剤、アナボリックステロイド、リファンピン、シクロスポリン、アモキシシリン・クラブラン酸などが胆汁うっ滞や輸送体阻害を通じて直接型高ビリルビン血症を引き起こすことがあります。

アルコール多飲、ウイルス性肝炎、敗血症、妊娠、甲状腺機能異常、栄養不良なども胆汁生成・排出の機能を低下させ、一過性の黄疸や胆汁うっ滞を悪化させます。既存の体質性黄疸がある人では、これらの環境因子で黄疸が目立つことがあります。

胆道結石や腫瘍による機械的閉塞は、胆汁流出路を塞ぐことで急性の排泄障害を引き起こします。この場合は右上腹部痛や発熱、黄疸の三徴を呈することがあり、緊急の減圧・除去が必要となります。

薬剤性が疑われる場合は中止が第一選択で、肝胆道系酵素やビリルビンの経時的モニタリング、必要に応じて画像検査・肝生検が検討されます。再投与は避け、LiverToxなどのデータベースで安全性情報を確認することが推奨されます。

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