ビタミンB12欠乏症誘発性貧血
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概要
ビタミンB12欠乏症誘発性貧血は、体内のビタミンB12(コバラミン)が不足することで赤血球の成熟がうまく進まず、酸素を運ぶ力が落ちるタイプの貧血です。典型的には赤血球が大きくなる巨赤芽球性貧血の形をとり、疲れやすさ、息切れ、動悸などの症状を引き起こします。欠乏の背景には、摂取不足だけでなく、吸収に必要な内因子や回腸での取り込み障害など、多様な要因が関与します。
ビタミンB12は主に動物性食品に含まれ、胃で内因子と結合し、回腸末端で吸収されます。そのため、厳格な菜食、胃切除や胃酸分泌低下、自己免疫性胃炎(悪性貧血)、小腸疾患や手術、薬剤の影響などが欠乏を招きます。とくに高齢者では食事摂取と吸収能の両面からリスクが高まります。
欠乏が長引くと、貧血以外にも神経症状(しびれ、歩行障害、感覚低下、記憶力低下など)を生じるのが本症の重要な特徴です。神経障害は不可逆的になりうるため、早期発見と早期補充が極めて大切です。血液検査でMCV高値、血清B12低値、メチルマロン酸やホモシステイン上昇が手がかりとなります。
治療は原因に応じたビタミンB12の補充(注射または高用量経口)と、基礎疾患の管理です。早ければ1週間ほどで網赤血球増加がみられ、4〜8週で血算が改善します。薬剤(メトホルミン、PPI/H2ブロッカー)や胃腸手術歴がある場合は、長期モニタリングと継続補充が必要になることがあります。
参考文献
- NIH ODS: Vitamin B12 Fact Sheet (Health Professional)
- MSDマニュアル家庭版:ビタミンB12欠乏
- StatPearls: Vitamin B12 Deficiency
症状
典型的な症状は貧血に伴う全身倦怠感、労作時息切れ、動悸、顔色不良、易疲労感です。進行により立ちくらみや頭痛、集中力低下もみられます。舌炎(赤くツルツルの舌)や口角炎を合併することがあり、食欲低下や体重減少につながることもあります。
神経症状は本症の重要サインで、手足のしびれ、ピリピリ感、感覚鈍麻、歩行のふらつき、腱反射低下などが起こります。後索障害により固有感覚が低下し、暗所での歩行が難しくなることがあります。長期化すると認知機能低下や抑うつ、不眠などの精神症状も出現しうるため注意が必要です。
消化器症状としては食欲不振、腹部不快感、下痢や便秘などの不定愁訴がみられます。悪性貧血では自己免疫性胃炎に伴う胃粘膜萎縮から、胃内の酸度低下と内因子不足が継続し、症状の遷延化を招くことがあります。
乳児では母親のB12欠乏(厳格菜食など)により生後数カ月で哺乳不良、成長遅延、筋緊張低下、発達遅滞が現れることがあります。小児例では不可逆的な神経発達障害を防ぐため、より迅速な診断と補充が強く求められます。
参考文献
- NICE CKS: Anaemia - B12 and folate deficiency
- AAFP: Vitamin B12 Deficiency—Recognition and Management
- StatPearls: Vitamin B12 Deficiency
発生機序
ビタミンB12はDNA合成に関与する補酵素で、葉酸サイクルと連動して核酸合成を支えます。欠乏すると核酸合成が滞り、骨髄で赤芽球の成熟が障害され、細胞質に比べて核の発達が遅れるため大型の未熟赤芽球(巨赤芽球)が蓄積します。これが巨赤芽球性貧血の本態です。
B12はメチルマロン酸をスクシニルCoAに変換する反応にも必要で、欠乏時にはメチルマロン酸が上昇します。メチルマロン酸の蓄積は神経髄鞘の代謝障害を引き起こし、末梢神経障害や後索・側索の変性(亜急性連合性脊髄変性症)につながります。
吸収には胃の主細胞・壁細胞から分泌される内因子、膵酵素によるRタンパクからの解離、回腸での内因子-B12複合体のCUBAM(CUBN/AMN)受容体による取り込みが不可欠です。どこか一つでも障害されると吸収不良が起き、慢性的な欠乏へ進みます。
自己免疫性胃炎では内因子に対する自己抗体や壁細胞破壊が生じ、内因子不足と胃酸低下が併発します。長期の薬剤性胃酸低下(PPI/H2ブロッカー)やメトホルミンによる小腸でのCa依存性取り込み障害も、機序的にB12吸収を妨げることが知られています。
参考文献
- MSDマニュアル家庭版:巨赤芽球性貧血
- StatPearls: Pernicious Anemia
- NIH ODS: Vitamin B12 Fact Sheet (Health Professional)
環境・生活・医療要因
栄養摂取の偏りは重要な環境因子です。ビタミンB12は動物性食品に豊富なため、厳格な菜食(ヴィーガン)や一部の高齢者で摂取不足が生じやすくなります。日本では穀類中心の食事に偏る、噛む力や食欲の低下なども背景となります。
消化管疾患や手術歴も大きな要因です。胃全摘・部分切除、胃バイパス術後、慢性萎縮性胃炎、H. pylori関連胃炎、回腸切除やクローン病などは吸収障害の代表です。魚寄生虫(裂頭条虫)感染や小腸内細菌過増殖も稀ながら原因になります。
薬剤では、プロトンポンプ阻害薬(PPI)やH2ブロッカーの長期使用により胃酸低下が起こり、食物由来B12の遊離が妨げられます。メトホルミンはカルシウム依存性の回腸取り込みを阻害し、長期使用者で欠乏リスクが高まります。笑気ガス(N2O)の濫用・医療曝露もB12を不活化します。
高齢、妊娠・授乳期、アルコール多飲、甲状腺疾患など自己免疫疾患の合併はリスク上昇に関連します。背景要因が重なるほど欠乏の可能性が高まるため、定期的な栄養評価と血液検査が推奨されます。
参考文献
- AAFP: Vitamin B12 Deficiency—Recognition and Management
- NICE CKS: Anaemia - B12 and folate deficiency
- StatPearls: Vitamin B12 Deficiency
治療と予後
治療はビタミンB12の補充が基本で、吸収障害が疑われる場合は注射(ヒドロキソコバラミンまたはシアノコバラミン)が第一選択です。経口が可能であれば1,000μg/日の高用量経口投与も有効で、患者背景に応じて選択されます。
典型的な反応として、開始1週間前後で網赤血球増加、2〜3週間でヘモグロビン上昇、4〜8週間で血算正常化が期待されます。葉酸欠乏の併存を見逃すと治療が遅れるため、両者の評価が同時に推奨されます。低カリウム血症などの稀な合併症にも注意します。
原因疾患(悪性貧血、胃切除後、薬剤性など)に応じ、長期の定期補充とモニタリングが必要になります。悪性貧血では生涯にわたる補充が一般的です。神経症状は改善に時間がかかり、遷延例では完全には戻らないことがあるため、早期介入が重要です。
予後は治療開始が早いほど良好です。食事や服薬、基礎疾患の管理と定期的な検査を継続すれば、再発リスクを抑えながら日常生活の質を保つことが可能です。妊娠・授乳期や高齢者では予防的アプローチが推奨されます。
参考文献

