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ヒップ周囲径

目次

定義と意義

ヒップ周囲径は、殿部(おしり)の最も外側が張り出した部分を水平に一周した長さを指す人体計測値です。主に大転子の高さ付近で測定し、体脂肪の分布、筋量、体型の把握に用いられます。医療・疫学・栄養分野で、健康リスクの評価に役立つ基本指標の一つです。

ウエスト周囲径とヒップ周囲径の比であるウエスト・ヒップ比(WHR)は、体脂肪分布の中心性(腹部)と末梢性(臀・大腿)の相対的バランスを示します。一般に腹部脂肪が多いと代謝リスクが高く、臀・大腿部脂肪が相対的に保たれるとリスクが低い傾向が報告されています。

多数の疫学研究で、BMIやウエストを統制した場合、ヒップ周囲径が大きいことは心血管代謝リスクの低さと関連することが示されてきました。これは臀・大腿(グルテオフェモラル)脂肪の生理機能が、遊離脂肪酸のバッファや有益なアディポカイン分泌などを通じて防御的に働くためと考えられます。

こうした背景からヒップ周囲径は、単独でも、また他の測定(BMI、ウエスト)と組み合わせても、身体組成と健康状態のスクリーニングに価値があります。日常診療や健康診断における実測が推奨され、介入の評価や長期追跡にも用いられます。

参考文献

測定方法と基準

測定は柔らかいメジャーを用い、被検者は軽く足を開いて直立し、呼気終末で力を抜いた状態で行います。殿部の最も突出した水平面でメジャーを回し、皮膚を圧迫しない程度の張力で読み取ります。薄手の衣服越しでは誤差が生じやすく、可能なら直接皮膚上で測ります。

測定者間のばらつきを小さくするには標準化が重要です。WHO STEPSや米国NHANESの手順書では、ランドマーク、姿勢、テープ位置、読み取りのタイミングが明示されています。再現性を高めるため、同一条件で複数回測定し平均を用いる方法も推奨されます。

ヒップ周囲径そのものに国際的な一律カットオフはありません。一方、WHRにはWHOが推奨域(男性0.90未満、女性0.85未満)を提示しており、ヒップ計測はWHR算出の必須要素です。用途に応じて、BMIやウエストと併用して総合評価します。

よくある誤りは、メジャーが傾く、最大全周ではなく高い位置で測る、テープを強く締める、衣服の厚みを考慮しない、などです。写真や図解付き手順に従い訓練することで、系統誤差と偶然誤差を減らせます。

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遺伝・環境の寄与

ヒップ周囲径や関連形質(WHR)の個人差には遺伝と環境がともに寄与します。双生児研究や家系研究では、成人の臀・大腿部を含む周径の遺伝率は中程度から高程度と推定され、研究や人種・性別により幅があります。

ゲノムワイド関連解析(GWAS)で、BMIの影響を調整した体脂肪分布(WHRadjBMI)のSNP遺伝率は概ね20%前後と推定され、女性で効果が強い遺伝子座が多数見つかっています。これは脂肪分布の性差に遺伝的基盤があることを示します。

環境要因としては、総エネルギー摂取、食事パターン、身体活動量、座位時間、喫煙、飲酒、睡眠、ストレス、社会経済状況、加齢や閉経などが挙げられます。ホルモン状態の変化は脂肪の沈着部位に影響し、腹部優位へのシフトを促すことがあります。

妊娠やエストロゲンの変動、筋力トレーニングによる筋量増加もヒップ周囲径に影響します。筋量の寄与と脂肪量の寄与を区別するには、周径に加えて体組成測定(DXAやBIA)を併用するのが望ましい場合があります。

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生物学的機序と健康影響

臀・大腿の皮下脂肪(グルテオフェモラル脂肪)は、脂肪滴の増大よりも脂肪細胞数の増加(高形成)で容量を拡げやすく、脂肪酸の取り込み・保持能が高いのが特徴です。この貯蔵能が、過剰な遊離脂肪酸の流出を抑えるバッファとして機能します。

この脂肪組織はアディポネクチンなど有益なアディポカインの分泌や、炎症性サイトカインの抑制と関連し、インスリン感受性の維持に寄与します。対照的に内臓脂肪は脂肪動員が活発で、肝への脂肪酸流入や炎症を介して代謝リスクを高めます。

エストロゲンはグルテオフェモラル脂肪の沈着を促し、閉経に伴うエストロゲン低下で腹部優位な分布へと移行しやすくなります。こうした性ホルモン依存性が、男女差やライフステージによる脂肪分布の違いを説明します。

疫学的には、ウエストやBMIを統制すると、ヒップ周囲径が大きいほど心血管疾患や糖尿病のリスクが低い関連が観察されます。死亡リスクに対しても、腹部肥満に比べ臀・大腿部容量の保持が防御的である可能性が示唆されています。

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研究動向と関連遺伝子

体脂肪分布のGWASでは、RSPO3、LYPLAL1、TBX15-WARS2、VEGFA、KLF14、GRB14/COBLL1など、脂肪細胞分化、WNTシグナル、血管新生、インスリンシグナルに関わる座位が同定されています。これらは臀・大腿部と腹部の脂肪沈着の差に影響します。

特にKLF14やHOXクラスターなど、一部の座位は女性で強い効果を示すことが知られ、性ホルモンや性特異的遺伝子発現との相互作用が示唆されます。これは同じ遺伝的背景でも男女で体脂肪分布が異なる理由の一端を説明します。

遺伝子機能の追跡研究では、アディポサイト前駆細胞の分化能、脂肪滴形成、脂質代謝経路、細胞外マトリックスリモデリングなどが、部位特異的に異なることが報告されています。動物モデルとヒト組織の比較が進んでいます。

将来的には、多遺伝子リスクスコアと生活習慣情報を統合し、体脂肪分布の個別予測や、腹部脂肪を抑え臀・大腿部の代謝的に有利な貯蔵能を保つ介入の個別最適化が期待されます。

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