Forest background
バイオインフォの森へようこそ

パッパリシン-1 (PAPPA) 血清濃度

目次

概念と基礎知識

パッパリシン-1(Pregnancy-Associated Plasma Protein-A; PAPPA)は、亜鉛依存性のメタロプロテアーゼで、主な基質はインスリン様成長因子結合タンパク質(IGFBP)4です。IGFBP-4を切断することで、インスリン様成長因子(IGF)の生物学的利用能が上がり、胎盤形成や血管新生などの生理プロセスに関与します。

PAPPAは妊娠時に胎盤・絨毛細胞から多量に分泌され、血清中ではproMBP(前駆ミエロペルオキシダーゼ結合蛋白)と複合体を形成して循環します。妊娠以外でも血管平滑筋やマクロファージで発現し、動脈硬化巣での局所的活性化が報告されています。

臨床的には、妊娠初期(およそ妊娠11~13+6週)の母体血清PAPPAは胎児染色体異常のスクリーニングに用いられ、NT(胎児項部透亮像)やfree β-hCGと組み合わせてリスク推定を行います。非妊娠時の血清濃度は低く、一般的な健診項目には含まれません。

急性冠症候群などの心血管イベントに関連してPAPPAが上昇することがあり、プラーク不安定性のマーカー候補として研究されています。ただし、現時点で心血管領域のルーチン検査としては広く標準化されていません。

参考文献

測定値の決まり方と影響因子

妊娠中のPAPPAは妊娠週数とともに上昇し、同じ週数でも母体の体格(BMI)、喫煙、糖尿病、体外受精の有無、民族などで平均値がずれます。臨床ではこうした要因で補正した「MoM(multiples of the median)」で評価するのが一般的です。

喫煙者ではPAPPAが低めに、体外受精妊娠や糖尿病合併では値が変動することが知られ、これらは偽陽性率に影響し得ます。検査機器や試薬間のばらつきもあり、同一ラボ・同一手法での経時的評価が望まれます。

非妊娠時はPAPPAは非常に低濃度で、測定系によっては検出限界近傍です。心血管領域では活性型PAPPA(主としてホモ二量体)を測る研究があり、妊娠時に循環するproMBP結合型とは生化学的性質が異なる可能性があります。

遺伝的要因については、PAPPA遺伝子近傍やIGF軸関連のpQTLが報告されますが、母体生理・環境因子の影響が相対的に大きいと推測され、個別の百分率は確立していません。

参考文献

臨床での使い方と解釈

PAPPA単独では診断には使わず、胎児項部透亮像(NT)やfree β-hCG、母体年齢などと統合した「妊娠初期コンバインド検査」で染色体異常の確率を推定します。低PAPPAはトリソミー21や18などの確率上昇と関連します。

PAPPAが低値(例:0.4~0.5 MoM未満)だと、胎盤機能不全に伴う妊娠高血圧腎症、胎児発育不全、早産、死産などのリスク上昇が報告されています。ただし予測能は限定的で、他のマーカーや母体背景と合わせた総合評価が必須です。

高値PAPPAの臨床的意義は限定的ですが、一部で巨大児傾向などの関連が示唆されています。異常値はいずれも「診断」ではなく、個別の説明と必要に応じた追加検査(NIPTや確定検査)につなげます。

心血管領域では、胸痛患者でPAPPA上昇がプラーク不安定性を反映する可能性が示されましたが、トロポニン等に比べ標準化や臨床的有用性の確立は途上です。

参考文献

測定法と理論

臨床検査ではサンドイッチ型免疫測定法(ELISA、化学発光免疫測定など)が主流で、二つのモノクローナル抗体で抗原をはさみ、シグナル強度から濃度を定量します。校正曲線と妊娠週数別の基準に基づきMoMに換算します。

製造各社の試薬(例:Roche Elecsys、PerkinElmer DELFIA)はエピトープやキャリブレーションが異なり、測定系依存の差が生じ得ます。したがってフォローアップは同一プラットフォームで行うのが望ましいです。

活性測定を目的とする研究用アッセイでは、IGFBP-4のプロテオリシス活性を指標とする機能測定もありますが、日常診療では量(質量濃度)測定が一般的です。

前処理、ヘマトクリット、溶血・リピミア、凍結融解などの前分析要因も測定に影響し、品質管理(IQC/EQA)の整備が重要です。

参考文献

生物学的役割と最新知見

PAPPAはIGFBP-4(場合によりIGFBP-5)を切断し、IGFシグナルを増強することで、胎盤の絨毛発達、母体血管改造、栄養移送に寄与します。妊娠中はproMBPとの複合体として主に循環します。

動脈硬化巣では活性型PAPPAが産生され、局所IGF活性を高めて平滑筋細胞の挙動に影響する可能性が示唆されています。炎症性刺激によりPAPPA発現が上がる報告もあります。

遺伝学的にはPAPPA遺伝子(9q33.1)の多型や近傍のpQTLが血中濃度に関与する可能性があり、ヒト血漿プロテオームゲノム関連解析で示されています。

近縁酵素としてPAPPA2があり、こちらは主にIGFBP-5を基質とします。両者は機能が重なる部分もありますが、妊娠スクリーニングで用いられるのはPAPPA(PAPPA1)です。

参考文献