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バセドウ病

目次

概要

バセドウ病(Graves病)は、免疫の誤作動により甲状腺を刺激する自己抗体(TSH受容体抗体:TRAb/TSI)が作られ、甲状腺ホルモンが過剰に分泌される自己免疫性甲状腺疾患です。動悸や体重減少、手の震え、暑がり、だるさなどの甲状腺機能亢進症状を生じ、びまん性甲状腺腫(首の腫れ)や、眼球突出・眼痛・複視などの甲状腺眼症(眼症状)を伴うことがあります。

発症は多因子性で、遺伝的素因と環境因子(喫煙、ストレス、ヨウ素摂取変化、産後の免疫再構築、薬剤など)が重なって起こります。世界的に女性に多く、好発年齢は20〜50歳ですが、小児から高齢者まで発症しうる疾患です。

治療は大きく、抗甲状腺薬(チアマゾール/メチマゾール、プロピルチオウラシル)、放射性ヨウ素内用療法、手術(甲状腺全摘または亜全摘)の三本柱で、病状・希望・合併症に合わせて選択します。眼症状に対しては禁煙、セレン補充(軽症例・ヨウ素過不足のない地域)、ステロイド、放射線、近年は生物学的製剤(欧米)などが用いられます。

診断は血液検査でTSH低下と遊離T4/T3上昇を確認し、TRAb/TSI測定で自己免疫性を支持します。超音波でびまん性腫大・血流増加を確認し、必要に応じて放射性ヨウ素摂取率・シンチグラフィで鑑別します。重症の急性増悪(甲状腺クリーゼ)は救急対応が必要です。

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症状

代表的な症状は、動悸・頻脈、体重減少(食欲は保たれる/増すことも)、手指振戦、焦燥・不安、不眠、暑がり・多汗、筋力低下、下痢傾向、月経異常などです。甲状腺はびまん性に腫れ、血管雑音を聴取することもあります。

眼症状(甲状腺眼症)は、眼球突出、眼瞼後退、充血・流涙、眼痛、眼窩圧迫感、複視、視神経障害に伴う視力低下など多彩で、喫煙は発症・重症化の最大の修飾因子です。

高齢者では典型的な交感神経刺激症状が目立たず、倦怠感や食欲不振、うつ様症状など非典型的な「無痛性(アパシー)型甲状腺中毒症」として現れることがあります。小児では成長障害や集中力低下、学業成績低下で気づかれることがあります。

稀ですが、感染・手術・外傷・分娩などを契機に急性増悪(甲状腺クリーゼ)を起こすと、発熱、重篤な頻脈、意識障害、肝不全などを伴い致死的になり得ます。早期診断・治療が重要です。

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発生機序

中心はTSH受容体(TSHR)に対する刺激性自己抗体(TRAb/TSI)で、甲状腺濾胞細胞のcAMP経路を活性化し、ホルモン合成・分泌・細胞増殖を促進します。自己抗体産生には、HLAなど抗原提示の遺伝的素因、T細胞抑制機構(CTLA4など)の破綻、B細胞活性化の異常が関与します。

眼症状は、眼窩線維芽細胞や脂肪細胞にもTSHRやIGF-1受容体が発現していることが関与し、自己免疫反応によりグリコサミノグリカン沈着、炎症、脂肪・筋肥厚が起こります。結果として眼球突出や眼筋障害が生じます。

環境因子は免疫系の閾値を下げ、発症引き金になります。喫煙は酸化ストレスを介して眼症状を悪化させ、過度のヨウ素負荷は自己免疫反応を増幅することがあります。産後は妊娠中の免疫寛容が解除される反跳で自己免疫疾患が出やすくなります。

薬剤(インターフェロンα、アミオダロン、免疫チェックポイント阻害薬、アレムツズマブなど)が甲状腺機能異常や自己免疫反応を誘発することがあります。遺伝と環境が重なり、一定の臨界点を超えると臨床的な甲状腺機能亢進症として顕在化します。

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遺伝・環境の寄与

双生児研究では、グレーブス病の遺伝率(表現型の分散に占める遺伝の割合)はおよそ70〜80%と推定され、残りが共有・非共有環境に起因するとされます。ただし人種・ヨウ素環境・時代で変動し得る推計値です。

関連遺伝子は多遺伝子性で、HLA-DR/DQ(抗原提示)、CTLA4・PTPN22(T細胞制御)、TSHR(標的受容体)、FCRL3、IL2RA、TNFAIP3、FOXP3などが報告されています。東アジアと欧米では寄与の強さが一部異なります。

環境因子では、喫煙、過度のヨウ素摂取や急激な変化、ストレス、産後、感染症、薬剤(IFNα、アミオダロン、免疫療法、アレムツズマブ)などが発症の引き金になり得ます。禁煙は眼症状の一次・二次予防として最重要です。

結局のところ「遺伝か環境か」という二分ではなく、感受性の高い遺伝背景に環境トリガーが重なって発症に至る“二打仮説”的な理解が実臨床では有用です。一次予防は限定的ですが、修飾可能な因子の管理で発症・再燃リスクを下げられます。

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診断と治療

診断は、血液検査でTSH低下、FT4/FT3高値を確認し、TRAb/TSI陽性でグレーブス病を支持します。超音波でびまん性腫大と血流増加、必要に応じてシンチグラフィで結節性中毒性甲状腺や無痛性甲状腺炎と鑑別します。

第一選択は抗甲状腺薬(メチマゾールが基本、妊娠初期や甲状腺クリーゼではPTU)。12〜18カ月の寛解導入後、再燃時は再投与か放射性ヨウ素療法、手術を検討します。選択は年齢、合併症、妊娠計画、眼症状、甲状腺の大きさ、患者の希望で決めます。

放射性ヨウ素内用療法は、甲状腺細胞を選択的に破壊して機能を低下させる根治的治療で、術後はしばしば甲状腺ホルモン補充が必要です。手術は巨大甲状腺や結節合併、妊娠希望、重度眼症例などで考慮されます。

眼症は禁煙、セレン(低セレン地域)、軽中等症ではステロイドや放射線、重症では免疫療法や手術(減圧術、斜視・眼瞼手術)を段階的に行います。日本では抗甲状腺薬主体の治療選好が一般的です。

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