ネフローゼ症候群
目次
概要
ネフローゼ症候群は、腎臓の糸球体というフィルター機能の障害により、尿中に大量のタンパク質が漏れ出ることで生じる、症状のまとまり(症候群)です。典型的には高度のタンパク尿(一般に3.5 g/日以上)、低アルブミン血症、浮腫(むくみ)、高脂血症を四徴とします。原因は多岐にわたり、糸球体そのものの病気(一次性)と、糖尿病や膠原病、感染症、薬剤など全身疾患に伴うもの(二次性)に大別されます。
小児では微小変化型ネフローゼ症候群が最も一般的で、ステロイドに反応しやすい傾向があります。成人では膜性腎症や巣状分節性糸球体硬化症(FSGS)、糖尿病性腎症などが原因として多く、病理型や背景疾患により経過と治療が異なります。腎生検により病理型を確定し、適切な治療方針を決めることが重要です。
ネフローゼ症候群は感染や血栓症のリスクを高め、生活の質に影響するため、支持療法(塩分制限、利尿薬、レニン・アンジオテンシン系阻害薬等)と原因に応じた免疫抑制療法や基礎疾患治療を組み合わせます。近年は自己抗体(例:PLA2R抗体)や遺伝子変異の関与が明らかになり、病態に応じた個別化医療が進んでいます。
疫学的には、小児の発症は年間2~7/10万人程度、成人は地域差が大きいものの年間数/10万人とされます。性・年齢によって病型の分布が異なり、小児では男児に多く、成人では中高年に膜性腎症が目立ちます。早期発見と適切な介入により合併症を減らし、長期的な腎機能低下を防ぐことが目標です。
参考文献
- NIDDK: Nephrotic Syndrome in Adults
- MSD Manual 専門家向け: ネフローゼ症候群
- KDIGO 2021 Clinical Practice Guideline for the Management of Glomerular Diseases
症状
最も目立つ症状は浮腫で、まぶたや足首のむくみから始まり、進行すると体重増加、腹水、胸水まで至ることがあります。尿が泡立つ、尿量が減る、倦怠感が続くなどの訴えも一般的です。低アルブミン血症により皮膚が乾燥しやすく、食欲低下や集中力の低下を伴う場合もあります。
血中の脂質が上昇しやすく、コレステロールや中性脂肪の上昇が検査で見つかります。タンパク尿が重い状態では血栓症のリスクが高まり、深部静脈血栓症や肺塞栓症など重篤な合併症に注意が必要です。また、免疫グロブリンの喪失で感染症にも罹りやすくなります。
小児では発熱や上気道感染後に症状が表面化することがあり、保護者がむくみや体重増加に気づいて受診するケースが多いです。成人では長期間の軽度の浮腫や蛋白尿が健康診断で指摘され、精査で判明することもあります。
症状の強さは原因疾患や病理型、治療への反応性で大きく異なります。浮腫や倦怠感など生活に影響する症状は、利尿薬や塩分・水分管理、弾性ストッキングなどの支持療法で軽減が期待できます。早期の医療介入が安全性と予後の改善につながります。
参考文献
発生機序
糸球体の濾過障壁は、内皮細胞、基底膜、足細胞(ポドサイト)とそのスリット膜で構成されます。ネフローゼ症候群では、この三層のいずれか、特に足細胞の障害によりアルブミンをはじめとした血漿タンパクが尿中へ漏出します。電子顕微鏡では足突起癒合が典型的に観察されます。
一次性(特発性)では、微小変化病や原発性膜性腎症、原発性FSGSなどが代表で、T細胞機能異常や循環性の透過性因子仮説、自己抗体(PLA2R、THSD7Aなど)の関与が提案されています。特に膜性腎症では抗PLA2R抗体が病態の指標と治療選択に役立ちます。
二次性では、糖尿病、高血圧、全身性エリテマトーデス、感染症(HBV、HCV、HIV、マラリア等)、腫瘍、薬剤(NSAIDs、金製剤、IFN製剤、ビスホスホネートなど)により糸球体障害が誘発されます。原因の同定は治療戦略に直結します。
遺伝性のネフローゼ症候群では、NPHS1(ネフリン)、NPHS2(ポドシン)、WT1、LAMB2、INF2、TRPC6、ACTN4など足細胞やスリット膜の機能に関与する遺伝子異常が病態を規定します。これらは特に小児のステロイド抵抗性例や家族例で重要です。
参考文献
- KDIGO 2021 Glomerular Diseases Guideline
- GeneReviews: Genetic Steroid-Resistant Nephrotic Syndrome Overview
診断と検査
診断の基本は、尿検査での高度蛋白尿の確認と、血液検査での低アルブミン血症・高脂血症の評価です。尿アルブミン/クレアチニン比(UACR)や24時間尿蛋白定量が用いられます。浮腫の程度や血栓リスク評価も重要です。
原因鑑別のため、感染症スクリーニング(HBV、HCV、HIV)、自己抗体(抗PLA2R抗体など)、代謝評価(糖尿病、脂質異常)を行います。成人の一次性疑いでは腎生検がしばしば必要で、病理型に基づいて治療方針を決めます。
小児では典型例で腎生検なしにステロイド治療を開始し、反応性で病型を推定することがあります。ステロイド抵抗例や再発例、非典型例では腎生検や遺伝学的検査を検討します。
画像検査(腎エコー)や血液凝固系の評価、栄養評価も合併症管理に役立ちます。検診や健診での尿蛋白陽性は精査のきっかけとなり、早期受診が予後改善につながります。
参考文献
治療
治療は支持療法と原因に対する特異的治療に分かれます。支持療法には、食塩制限、利尿薬での浮腫管理、ACE阻害薬/ARBによる蛋白尿の抑制、ワクチン接種、感染予防、血栓症高リスク例での抗凝固の検討などが含まれます。
一次性の微小変化病やFSGSにはステロイドが第一選択で、反応不十分な場合にはカルシニューリン阻害薬(シクロスポリン、タクロリムス)やシクロホスファミド、ミコフェノール酸モフェチル、リツキシマブなどを用います。
膜性腎症では、抗PLA2R抗体やリスク層別化に基づき、リツキシマブやシクロホスファミド+ステロイド、カルシニューリン阻害薬などを選択します。二次性の場合は基礎疾患治療(例:糖尿病コントロール、B/C型肝炎治療、腫瘍対策、原因薬剤の中止)が優先です。
遺伝性やステロイド抵抗性では、免疫抑制の効果が限定的なことも多く、支持療法の徹底と腎保護、合併症対策、必要に応じて腎代替療法を検討します。患者教育と再発予防の生活指導が長期成績を左右します。
参考文献

