トロンボプラスチン時間
目次
用語の概要と背景
トロンボプラスチン時間という言葉は、主に二つの凝固検査を指して使われることがあります。ひとつはプロトロンビン時間(PT)で、もうひとつは部分トロンボプラスチン時間(PTT)または活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)です。PTは外因系と共通系、APTTは内因系と共通系の機能を反映します。歴史的に「トロンボプラスチン」は組織因子を含む試薬を意味し、これがPT試験に用いられます。
PTは組織因子(トロンボプラスチン)とリン脂質、カルシウムを加えて血漿が凝固するまでの時間を測ります。これはビタミンK依存性因子や肝機能、ワルファリンの影響を評価するのに有用です。一方でAPTTは組織因子を含まないリン脂質と活性化剤を用い、内因系因子(第VIII、IX、XI、XIIなど)の異常や未分画ヘパリンの影響を検出します。
臨床では、出血傾向や血栓傾向の評価、周術期のリスク把握、抗凝固療法のモニタリングなどで両検査が併用されます。PTは国際標準化比(INR)に換算してワルファリン療法を管理するのが一般的です。APTTはヘパリン投与時の目標域に合わせて管理されますが、近年は抗Xa活性での管理が推奨される場面も増えています。
検査値は試薬・測定機器によって異なるため、施設ごとの基準範囲が設けられます。また、採血条件や前処理などの前分析要因に大きく影響されます。検査解釈では、単純な因子欠乏とインヒビター(ループスアンチコアグラントや特異的自己抗体)を区別するためにミキシング試験が用いられます。
参考文献
- Testing.com: Activated Partial Thromboplastin Time (aPTT)
- Testing.com: Prothrombin Time and International Normalized Ratio (PT/INR)
- StatPearls: Physiology, Hemostasis
測定原理と検体取り扱い
PTでは、クエン酸ナトリウムで抗凝固した血漿に、組織因子を含むトロンボプラスチン試薬とカルシウムを添加し、フィブリン形成までの時間を計測します。APTTでは、リン脂質と活性化剤(シリカ、カオリン、エラジン酸)で内因系を活性化したのち、カルシウムを加えて凝固時間を測定します。
検出方式には、機械的(スティールボールや粘度変化)と光学的(透過度の変化を検出)があります。近年は凝固過程の曲線全体を解析する「クロットウェーブフォーム解析」も報告され、ループスアンチコアグラントなどの鑑別に資することがあります。
検体は適正な比率(血液
=9)で採取し、速やかに遠心分離して血小板を除いた血漿を用います。チューブの満たし不良、長時間の放置、強い溶血、高ヘマトクリットなどは結果に影響する代表的な前分析要因です。直接経口抗凝固薬(DOAC)はPTやAPTTにさまざまな影響を及ぼし、定量的な活性の推定には適しません。モニタリングが必要な場合は、薬剤別の特異的アッセイや抗Xa法など、目的に応じた検査の選択が望まれます。
参考文献
- ARUP Consult: Activated Partial Thromboplastin Time (aPTT) Testing
- StatPearls: Partial Thromboplastin Time
- Preanalytical variability of coagulation testing (Lippi et al., 2013)
解釈の基本と代表的な異常
APTT延長は第VIII、IX、XI、XII因子欠乏、フォン・ヴィレブランド病、未分画ヘパリン投与、ループスアンチコアグラント、特異的因子インヒビターなどでみられます。PT延長はビタミンK欠乏、肝機能障害、ワルファリン投与、重篤なDICなどで顕著です。両者の延長は共通系因子の欠乏や重篤な肝障害を示唆します。
ミキシング試験は、患者血漿と正常血漿を等量混合して再測定し、延長が是正されるかを確認します。是正されれば欠乏、是正されなければインヒビターの存在が疑われます。ただし時間依存性インヒビター(第VIII因子自己抗体など)では直後とインキュベーション後で所見が異なることに留意が必要です。
出血症状のない孤立性APTT延長では、第XII因子欠乏や接触因子関連の延長、ループスアンチコアグラントなどが鑑別に上がります。ループスアンチコアグラントは出血ではなく血栓リスクと関連することがある点が臨床的に重要です。
DOACの影響、採血の問題、妊娠、急性期反応(vWF上昇によるAPTT短縮)など、多様な要因が数値に影響します。臨床症状と薬歴、基礎疾患の情報を合わせて総合的に判断することが欠かせません。
参考文献
- StatPearls: Partial Thromboplastin Time
- ARUP Consult: Lupus Anticoagulant Testing
- Testing.com: PT/INR and aPTT pages
基準範囲と標準化
PTとAPTTの基準範囲は試薬・機器ごとに設定され、施設間で異なります。代表的にはPTがおよそ11〜13.5秒、APTTが25〜35秒とされますが、報告書に記載される自施設の基準範囲で評価するのが原則です。
PTは国際感度指数(ISI)を用いるINRにより標準化され、ワルファリン療法の目標域(多くは2.0〜3.0)が設定されます。一方でAPTTに国際的な標準化はなく、各施設がヘパリン治療域を決めるのが一般的です。
年齢、妊娠、急性炎症、採血条件、輸液希釈などの要因で基準値がシフトすることがあります。小児や高齢者では年齢階層別の参照区間が必要となる場合があります。
結果の信頼性を高めるため、前分析プロセスの最適化、内部精度管理と外部精度管理の実施が不可欠です。試薬ロット変更時には参照区間の再検証が必要になることがあります。
参考文献
患者向けの注意点と受診の目安
検査の異常が指摘された場合は、まず薬剤(ワルファリン、ヘパリン、DOAC、抗血小板薬、サプリメント)や出血・血栓の症状の有無を医師に伝えることが大切です。採血条件が不適切だった可能性もあるため、必要に応じて再検査を行います。
手術前評価では、無症状の人に一律にPTやAPTTを行っても有用性が限られるとされ、問診と病歴に基づき選択的に実施されます。既往や家族歴に出血性疾患がある場合は、専門的な凝固因子測定が推奨されることがあります。
APTTやPTの延長が明らかなときは、ミキシング試験や凝固因子活性測定、ループスアンチコアグラント検査、肝機能評価、ビタミンK欠乏の評価など、原因別の精査が必要です。自己判断で抗凝固薬を中止することは危険です。
異常の程度、症状、背景疾患によって対応は大きく異なります。出血が持続する、黒色便や血尿がある、突然の片麻痺や胸痛・息切れなど血栓を疑う症状がある場合は、直ちに医療機関へ相談してください。
参考文献

