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デュピュイトラン拘縮

目次

概要

デュピュイトラン拘縮(Dupuytren’s contracture)は、手のひらの皮膚の下にある掌腱膜が線維化して縮み、指が徐々に曲がって伸ばしにくくなる慢性の線維増殖性疾患です。痛みは軽いか無いことが多い一方、進行すると日常生活動作や職業動作に支障をきたします。

好発は中高年、とくに北欧系白人男性に多く、環境要因(喫煙、飲酒、糖尿病など)と遺伝要因の双方が関与します。進行速度は個人差が大きく、数年ほとんど変化しない人もいれば、短期間で顕著に悪化する人もいます。

掌側の皮膚に硬い「しこり(結節)」が出現し、やがてロープ状の「索(コード)」が形成されます。索が短縮することで中指から小指にかけての屈曲拘縮が生じ、手を平らに机に置けなくなります(ヒューストンのテーブルトップテスト)。

関連疾患として、足底線維腫症(レーダーホーゼ病)や背側のナックルパッド、陰茎硬化性リンパ管炎など同系統の線維増殖性病変が併存することがあります。治療は経過観察から注射、経皮的手技、手術まで病期とニーズに応じて選択されます。

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症状と経過

初期は手のひらの小さなしこりや皮膚のくぼみ、皮膚のひきつれ感として気づかれます。多くは無痛性ですが、押すと軽い痛みや圧痛を伴うことがあります。

進行すると索が明瞭になり、環指(薬指)と小指で屈曲拘縮が目立ちます。特にPIP関節(第2関節)の拘縮は機能障害を強く伴い、ズボンのポケットに手を入れる、手袋をはめる、手を洗うなどが困難になります。

進行速度は不定で、男性、若年発症、家族歴あり、両手罹患、足底線維腫症併存などは進行・再発リスクが高いとされます。経過は階段状に悪化と安定期を繰り返すことがあります。

テーブルトップテストで手掌を机に平らに置けない場合や、MCP関節拘縮がおおむね30度以上、PIP関節に拘縮がみられる場合は、治療介入が検討されます。

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原因・危険因子

原因は単一ではなく、遺伝的素因と環境的因子が相互作用して発症します。家系内集積や双生児研究から高い遺伝率が示され、Wnt経路などのシグナル伝達異常が関与することが示唆されています。

環境因子としては、加齢、男性、北欧系の祖先、喫煙、過度の飲酒、糖尿病、手の外傷や振動暴露、慢性肝疾患などが報告されています。抗てんかん薬との関連は歴史的に言及されますが、現在は因果が不確実とする報告もあります。

糖尿病患者では掌腱膜の糖化や微小血管障害などから線維化が促進される可能性が指摘されます。喫煙・飲酒は線維芽細胞の活性化や微小循環の障害を通じて影響する仮説があります。

遺伝学的にはWNT4、SFRP4、DDR2、EPDR1など多数の感受性座位が同定され、線維芽細胞の分化を促すTGF-βシグナルやWntシグナルの過剰活性化が病態の中心と考えられます。

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診断と検査

診断は臨床所見が基本で、手掌の結節・索、皮膚のくぼみ、関節の可動域制限を診察で確認します。テーブルトップテストは簡便なスクリーニングとして有用です。

画像検査は通常不要ですが、超音波は索の走行や血管・神経との位置関係を可視化でき、注射や経皮的手技前の把握に役立つことがあります。MRIは特殊な状況でのみ用いられます。

鑑別診断には屈筋腱の短縮、関節拘縮、外傷後瘢痕、ガングリオン、腫瘍性病変などが含まれ、病歴と身体所見で多くは区別可能です。

重症度評価はMCP/PIP関節の屈曲角度を測定し、経時的に追跡します。生活上の不便さ(手の衛生、装具着脱、仕事)も治療適応判断の重要な要素です。

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治療と予後

治療は症状と機能障害の程度で選択されます。軽症で機能障害が小さい場合は経過観察、ストレッチや夜間スプリントが提案されることもありますが、進行抑制の確立したエビデンスは限定的です。

低侵襲選択肢としては、経皮的針切開(ニードルアポニューロトミー)やコラゲナーゼ(CCH)注射があります。これらは早期の可動域改善と短い回復期間が利点ですが、再発率は手術に比べ高めです。

外科的治療(限局性部分筋膜切除、皮膚移植を伴う皮膚筋膜切除など)は重症例や再発例で検討され、より持続的な矯正が期待できますが、創傷合併症や神経血管損傷、関節硬縮のリスクがあります。

予後は個人差があり、若年発症、両側例、家族歴、指節間関節拘縮が強い例、合併線維腫症のある例で再発が多い傾向です。治療後は手療法とスプリントで再硬縮を予防しつつ機能回復を図ります。

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