シスタチン B (CSTB) 血清濃度
目次
概要
シスタチンB(CSTB、別名Stefin B)は、システインプロテアーゼ(主にカテプシン群)を阻害する内在性阻害タンパク質で、CSTB遺伝子にコードされています。細胞質に主に存在しますが、体液中でも低濃度で検出されます。臨床検査として広く普及しているシスタチンCとは異なり、シスタチンBの血清測定は研究用途が中心で、標準化された基準範囲や臨床的解釈は確立していません。
CSTBは神経系や免疫系を含む多くの組織で発現し、リソソーム由来のカテプシン活性を微調整することで、タンパク質分解の恒常性や細胞死シグナル、酸化ストレス応答に関与します。CSTB遺伝子の異常は進行性ミオクローヌスてんかん(Unverricht–Lundborg病:EPM1)の原因として知られ、疾患研究の文脈で注目されてきました。
血清・血漿中のCSTB濃度は低く、測定は高感度の免疫測定法(サンドイッチELISAなど)や質量分析プロテオミクスで行われます。しかし測定法間で結果の互換性は乏しく、前処理や溶血の影響も大きいため、施設ごとのリファレンス区間に基づいて相対的に解釈するのが現状です。
臨床的には、CSTB血清濃度は特定疾患の診断単独指標としては確立していませんが、神経変性、炎症、腫瘍などの研究でバイオマーカー候補として探索されています。したがって、解釈は臨床背景・他検査との総合判断が不可欠であり、単独の数値で病態を断定すべきではありません。
参考文献
- NCBI Gene: CSTB cystatin B
- UniProtKB - P04080 (CSTB)
- Wikipedia: Cystatin B
- The Human Protein Atlas: CSTB
遺伝・環境要因と変動
CSTB血清濃度の遺伝率(遺伝要因が寄与する割合)を直接推定したピアレビュー研究は限られており、具体的な百分率は現時点で確立していません。一方で、大規模プロテオーム・ゲノミクス研究は、多数の血中タンパク質が遺伝子多型(pQTL)の影響を受けることを示しており、CSTBも遺伝的調節を受けている可能性があります。
遺伝的要因の例として、CSTBプロモーターの12塩基反復配列の伸長はEPM1の原因変異として知られますが、これは主として神経系でのCSTB発現低下と病態に関係し、健常者における血清濃度のばらつきの定量的説明には直結しません。
環境・生理要因としては、炎症や組織障害に伴う細胞内容物の血中流出、サイトカイン刺激による発現変動、標本溶血や前処理条件、保存温度・凍結融解回数などのプレアナリティカルな要因がCSTB測定値に影響し得ます。特に溶血は細胞内蛋白の見かけ上の上昇を招くため、採血・搬送・遠心条件の標準化が重要です。
総じて、CSTB血清濃度の遺伝/環境の比率を%で提示できるだけのエビデンスは不足しています。個々の研究では遺伝要因の存在が示唆される一方、測定法・前処理・背景疾患といった非遺伝要因の影響が現実のデータでは大きく、比率の一般化は現段階では困難です。
参考文献
- Sun et al. Genomic atlas of the human plasma proteome. Nature 2018
- Emilsson et al. Co-regulatory networks... Science 2018
- GeneReviews: Unverricht-Lundborg Disease (EPM1)
測定の意義と解釈
CSTB血清濃度の測定は、日常診療でのルーチン検査ではなく、主に研究や探索的なバイオマーカー評価の一環として用いられます。神経炎症や神経変性、腫瘍関連のプロセスでCSTBが関与する可能性があるため、病態の理解や群間比較に有用なことがあります。
解釈では、同一個人内の経時変化(増減のトレンド)が特に価値を持ちます。絶対値は試薬・装置間で揮発性が大きいため、同一手法・同一検査室でのフォローが望ましいです。他の炎症マーカー(CRPなど)や神経特異的マーカーとあわせた総合評価が推奨されます。
高値や低値が得られた場合は、採血時の溶血、長時間の室温放置、凍結融解の反復などのプレアナリティカルエラーをまず除外します。そのうえで臨床像に応じ、感染・炎症、組織障害、腫瘍性疾患、神経疾患などの鑑別を検討します。
CSTBは診断確定のゴールドスタンダードではありません。特定疾患の診断には画像検査、遺伝学的検査、他の確立したバイオマーカーが必要であり、CSTBは補助的な情報として位置づけるべきです。
参考文献
測定法と理論
サンドイッチELISAは、固相化した捕捉抗体でCSTBを捕捉し、別の検出抗体(酵素標識)で挟み込むことで特異的に検出する手法です。標準品の既知濃度から作成した検量線を用いて、吸光度と濃度の関係を非線形回帰(4/5パラメータロジスティック)で求め、未知試料の濃度を算出します。
質量分析(ターゲット型SRM/PRM)は、トリプシン消化したペプチドの質量電荷比とフラグメントイオンを検出し、安定同位体標識ペプチドを内標準として用いることで、マトリクス効果を補正しながら絶対定量を可能にします。高い特異性と多重測定性が利点ですが、装置・技術の専門性が求められます。
ウエスタンブロッティングや免疫沈降もCSTBの存在確認や半定量に用いられますが、血清のような複雑マトリクスでは感度・ダイナミックレンジの制約があります。臨床検査としての再現性・スループットの観点からはELISAが最も現実的です。
プレアナリティカル要因(採血管の種類、遠心条件、保存温度、溶血・リピミア・黄疸の干渉)やアナリティカル要因(抗体の特異性、キャリブレーション、交差反応)を管理することが、信頼できる定量の前提となります。
参考文献
生物学的役割と疾患関連
CSTBは、カテプシンB/H/L/Sなどのシステインプロテアーゼを可逆的に阻害し、リソソーム依存的なタンパク質分解の過剰活性化を抑制します。その結果、細胞内タンパク質の恒常性維持、アポトーシスの制御、酸化ストレス防御などに寄与します。
CSTB遺伝子の機能喪失はEPM1の原因で、神経細胞の過敏性や神経変性、ミオクローヌスを呈します。CSTB欠損マウスはニューロンの易損性やグリア反応の亢進を示し、CSTBの神経保護的役割が支持されています。
腫瘍では、カテプシン活性は浸潤・転移に関与するため、CSTBや他のシスタチンの発現変動が腫瘍微小環境のリモデリングに影響することが示唆されています。組織や体液中のCSTBは一部のがんで予後や治療反応性の探索的指標として研究されています。
ただし、CSTBの血清濃度を単独で疾患特異的に解釈することには限界があります。疾患特異性・感度・特異度は均一ではなく、臨床応用には更なる前向き研究と外部妥当化が必要です。
参考文献

