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ケロイド体質

目次

概要

ケロイド体質とは、皮膚が傷ついた後に通常よりも過剰な瘢痕組織が増殖し、創部の境界を超えて広がる「ケロイド」をつくりやすい傾向を指します。肥厚性瘢痕は時間とともに退縮しやすいのに対し、ケロイドは持続的に増大し、赤み・硬さ・かゆみや痛みを伴うことが多い点が特徴です。

この体質は人種・家族歴・年齢・皮膚の張力や慢性炎症などの内外の要因が複合して現れます。特に胸部・肩・耳介など張力のかかる部位や穿孔・手術・にきび痕などの後に発生しやすいとされます。

臨床的には視診・触診で診断され、病理組織では太く不規則に配列した膠原線維やミオファイブロブラスト増生がみられます。悪性腫瘍ではありませんが、生活の質に大きく影響する慢性疾患と捉えられます。

治療は単一ではなく、保存的(シリコン・圧迫・外用)から注射(トリアムシノロン、5-FU等)、冷凍・レーザー、手術+放射線まで、個別の病態に合わせた多面的アプローチが推奨されます。再発率が高いため、予防と長期フォローが重要です。

参考文献

病態生理

ケロイドでは、線維芽細胞とミオファイブロブラストの過剰増殖、コラーゲンI・IIIやフィブロネクチンなど細胞外基質の異常沈着が持続します。TGF-β/SMAD系、PDGF、VEGF、IL-6などのシグナルが活性化し、創傷治癒の炎症期が遷延して線維化が進行します。

皮膚の機械的張力は重要なドライバーで、牽引が強い部位ほど炎症と線維化を促すメカノトランスダクションが亢進します。オガワの仮説では「真皮網状層の慢性炎症」がケロイドの中心病態で、張力と微小循環の変化が炎症を維持するとされます。

神経・血管のリモデリング、マスト細胞や好酸球、サイトカインカスケード、酸化ストレス、エピジェネティックな制御異常(miRNA、DNAメチル化)も関与します。これらは遺伝的素因と環境因子の相互作用で強化されます。

このような多因子性により、単剤療法では不十分になりがちで、張力制御(テーピング・圧迫)と抗炎症・抗線維化治療を組み合わせる必要があります。

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遺伝学

ケロイド体質には家族内集積が知られ、特にアフリカ系・アジア系で頻度が高いことが報告されています。常染色体優性様の遺伝形式が示唆される家系もありますが、不完全浸透・多因子性が一般的と考えられます。

ゲノムワイド関連解析(GWAS)では、NEDD4を含む領域やHLA関連座位などが候補として挙げられ、細胞増殖・炎症・線維化に関与する経路の多様な遺伝的変異が関与するとされています。ただし、民族間で結果の再現性にばらつきがあり、効果量は中等度です。

TGF-β1やSMAD、IL-6などの多型についても相関報告がありますが、臨床での遺伝子検査はまだ確立していません。遺伝子×環境相互作用(例:張力・ホルモン・炎症)を考慮したリスク評価が現実的です。

したがって「遺伝か環境か」の二分法ではなく、遺伝的素因がある人に環境要因が重なることで発症すると理解されます。

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疫学・リスク因子

ケロイドは世界中でみられますが、アフリカ系では有病率が4.5–16%と高く、アジア系・ラテン系でもリスクが上昇するとされます。白人では相対的に低頻度です。

好発年齢は思春期から30歳代で、耳介・胸骨部・肩・三角筋部・下顎など張力の高い部位に多い。女性は耳ピアスなど文化的行動の影響で耳介ケロイドが多く見られる一方、性差自体は大きくないとされます。

リスク因子には、穿孔・手術・外傷・痤瘡・ワクチン接種部位の炎症、妊娠や思春期のホルモン変化、感染や創部の緊張、紫外線曝露などが挙げられます。

日本人における厳密な有病率の推定は限られますが、臨床現場では少なくなく、特にピアスやにきび痕後の耳介・胸部ケロイドが一般的です。

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診断・治療・予防

診断は臨床的で、境界を越えて増殖する硬い紅色の瘢痕、かゆみや痛み、持続的増大などを確認します。鑑別に肥厚性瘢痕や皮膚腫瘍があり、必要に応じて病理検査を行います。

治療は多面的な組合せが推奨されます。第一選択はトリアムシノロン局注で、5-FUやブレオマイシン併用、冷凍・色素レーザー、シリコンシート・ゲル、圧迫療法など。再発しやすい場合は手術+術後照射(24–72時間以内)が有効とされます。

予防は、創部の張力を下げる縫合法・テーピング、早期からのシリコン・圧迫、紫外線対策、痤瘡の適切な治療、不要な穿孔・タトゥーを避けることなどが重要です。

日本では多くの治療が公的医療保険の対象です。高額療養費制度など経済的支援も利用可能で、治療継続の障壁を下げられます。

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