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カフェインによる運動パフォーマンス向上

目次

定義と概要

カフェインによる運動パフォーマンス向上とは、コーヒーやエナジードリンク、錠剤などで摂取したカフェインが、持久系、筋力・パワー系、高強度反復運動などの成績を平均すると小~中等度ながら有意に高める現象を指します。多くの無作為化試験とメタ解析で裏づけられ、世界的に最も信頼性の高いエルゴジェニック(競技力向上)サプリメントの一つと位置付けられています。

実務上は体重当たり3~6 mg/kgを運動30~60分前に摂るプロトコルが広く用いられます。持久系タイムトライアル、反復スプリント、筋力発揮、集中力・反応時間の指標に改善がみられる一方、個人差は大きく、全員に同じ程度の効果が出るわけではありません。

世界アンチ・ドーピング機関(WADA)はカフェインを禁止表に載せていませんが、使用動向を監視するモニタリング・プログラムには挙げています。これは効果がある一方で社会的に広く摂取される物質であるという性質を反映しています。

安全性については、健常成人で1日の総摂取量が400 mg程度、単回200 mg程度は一般に安全と評価されています。ただし妊娠中は200 mg/日以下が推奨され、未成年や不整脈など基礎疾患のある方は慎重な判断が必要です。

参考文献

作用機序(なぜ効くのか)

主な機序は中枢神経でのアデノシンA1/A2A受容体拮抗作用です。アデノシンは眠気や疲労感を促す神経調整因子で、カフェインはその受容体をブロックして覚醒度を高め、努力感(RPE)を下げ、動機づけや運動出力の維持を助けます。これにより長時間運動や反復的高強度運動で有利に働きます。

末梢では筋小胞体からのカルシウム遊離やNa+/K+ポンプ機能、運動単位動員の促進といった説が提唱されています。ただしヒトでの主効果は中枢性と考えられ、脂質酸化の増大や筋グリコーゲン節約が主因という古典的仮説は現在では限定的とする見解が一般的です。

カフェインは反応時間や注意力も改善し得ます。球技や戦術判断が重要な競技では、フィジカルだけでなく認知的側面の改善が実パフォーマンスに寄与する可能性があります。

総じて、複数の機序が重なって実用上の小~中等度の効果を生み出していると理解されています。どの機序が優位かは競技特性、個人差、用量・タイミングに左右されます。

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用量・タイミング・形態

最もエビデンスが厚いのは3~6 mg/kgを運動30~60分前にカプセルまたは無味飲料で摂る方法です。2 mg/kg程度でも効果が見える場合があり、6 mg/kgを超えると有害事象が増えるため常用は推奨されません。

形態は無水カフェインが標準ですが、コーヒーやガム、エナジードリンクでも実用効果が得られることがあります。コーヒーには他の生理活性物質が含まれ、吸収速度や個人差が広がる可能性があります。

タイミングは経口で30~60分前が基本ですが、カフェインガムなど口腔粘膜吸収では15分程度で効果が発現しやすいとされます。長時間競技では後半やピットでの追加投与も戦略になり得ます。

試合種目、開始時刻、胃腸の耐性、睡眠状況、カフェイン習慣などを踏まえ、少量からテストして自分に合うプロトコルを見つけることが重要です。本番で初めて試すのは避け、練習で反応と副作用を確認しましょう。

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個人差と遺伝的要因

カフェインの効き方には顕著な個人差があります。候補遺伝子としてカフェイン代謝を担うCYP1A2(rs762551)と、主標的であるアデノシン受容体ADORA2A(rs5751876)がよく研究されています。

CYP1A2ではA/A型が速い代謝、Cアレルを持つ型が遅い代謝傾向を示します。初期研究は遅い代謝型で効果が小さい可能性を示しましたが、近年の系統的レビューやメタ解析では一貫しない、もしくは効果修飾がごく小さいとの結論が増えています。

ADORA2A多型はカフェイン誘発性の不安や睡眠障害の個人差と関連し、これが間接的にパフォーマンス反応を左右する可能性があります。ただし運動成績そのものへの影響は確定的ではありません。

現時点で「遺伝率○%」のような定量は確立しておらず、遺伝と環境が相互作用して反応を形作ると考えるのが妥当です。したがって遺伝子検査だけで反応を予測するのは早計です。

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安全性・副作用・規制

一般的な副作用は、動悸、手の震え、胃部不快、焦燥、不眠、頻尿などです。特に就寝6時間以内の摂取は睡眠の質を損ねやすく、翌日の回復やトレーニングに悪影響を及ぼします。

毒性は用量依存的で、6 mg/kgを超える高用量や未熟な耐性では副作用が顕在化しやすいです。心疾患、不整脈、妊娠中、思春期の方は医療者と相談のうえ慎重に運用してください。

WADAは禁止物質とはしていませんが、使用状況を把握するためモニタリング対象です。競技規程上の違反には当たりませんが、競技団体のガイドラインに従うことが重要です。

摂取戦略の安全化には、低用量からの漸増、夜間の回避、胃腸負担の少ない形態の選択、水分と電解質の確保、カフェイン以外の刺激物との併用回避などが有効です。

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