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インスリン抵抗性

目次

インスリン抵抗性の概要

インスリン抵抗性とは、同じ量のインスリンが分泌されても、筋肉・肝臓・脂肪組織などでのブドウ糖取り込みや産生抑制が十分に起こらない状態を指します。肥満、特に内臓脂肪の増加、身体活動不足、加齢、睡眠不足やストレス、慢性炎症が背景で進行します。

初期には膵β細胞がインスリン分泌を増やして血糖を保つため、空腹時血糖は正常でも高インスリン血症がみられます。補償が破綻すると耐糖能異常や2型糖尿病に移行します。脂肪肝、動脈硬化、高血圧、脂質異常など代謝異常の中に位置づけられます。

診断には、臨床研究で標準とされる高インスリン正常血糖クランプが最も正確ですが、実臨床では空腹時インスリンと血糖から計算するHOMA-IRなどの簡便指標がよく用いられます。これらは人種や肥満度で解釈が異なる点に注意が必要です。

生活習慣の是正、特に体重の5〜10%減量、持久的運動とレジスタンス運動の併用、十分な睡眠と禁煙は、インスリン感受性を改善します。糖尿病合併例ではメトホルミンやGLP-1受容体作動薬、SGLT2阻害薬などが全身代謝を改善します。

参考文献

インスリン抵抗性の遺伝的要因と環境的要因の比率(%)

双生児研究や家族集積の解析から、インスリン感受性やHOMA-IRには中等度の遺伝率があると推定されます。表現型や集団により幅はありますが、おおむね遺伝の寄与は30〜60%程度、残りが環境やライフスタイル、年齢などの要因によると報告されています。

遺伝率は「集団内のばらつきのうち遺伝で説明される割合」で、個人の運命を決める数値ではありません。肥満、とくに内臓脂肪の増加は強力な環境要因で、同じ遺伝背景でも食事・運動・睡眠で感受性は大きく変わります。

また、遺伝と環境の相互作用も重要です。肥満リスク遺伝子や脂肪分布に影響する遺伝子は、高エネルギーな食環境下でより顕著にインスリン抵抗性を増悪させます。逆に、運動習慣は遺伝的素因を部分的に相殺しうることが示唆されています。

したがって、比率は固定値ではなく、民族差、年齢、肥満度、測定方法(クランプ法かHOMA-IRか)で異なります。臨床的には、遺伝の寄与があっても生活介入が十分に効果を示す点が最も重要です。

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インスリン抵抗性の意味・解釈

インスリン抵抗性は「高インスリンが必要な体の状態」を示すマーカーで、初期は血糖正常でも心血管リスクが上昇します。高トリグリセリド血症、低HDL、脂肪肝、高血圧、尿酸上昇と併存しやすく、メタボリックシンドロームの基盤です。

HOMA-IRは簡便ですが、空腹時測定に依存し、インスリン分泌能の差や薬剤の影響を受けます。参考域は人種や施設で異なり、単独で診断を決めず、腹囲、血圧、脂質、肝機能や画像所見を合わせて評価します。

インスリン抵抗性が高度でも、膵β細胞が長く補償できる人は糖尿病発症が遅れます。一方、β細胞機能低下が早い人は、抵抗性が中等度でも早期に耐糖能異常へ進行します。両者のバランスが個々のリスクを左右します。

臨床での解釈は、「現時点の代謝負荷」と「将来のリスク」を伝え、生活介入計画や必要時の薬物療法選択に活かすことです。定期的な再評価で、減量や運動に伴う改善を確認することが有用です。

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インスリン抵抗性に関与する遺伝子および変異

候補遺伝子とGWASから、脂肪細胞の分化やインスリンシグナル伝達、脂肪分布に関わる遺伝子が特に注目されています。PPARGの多型(Pro12Ala)はインスリン感受性をわずかに高め、2型糖尿病リスクを低下させることが知られています。

IRS1近傍の多型は、皮下脂肪が少ない一方で肝・筋でのインスリン抵抗性と不利な脂質プロファイルを示すことが報告されています。GCKR多型は中性脂肪や糖代謝に影響し、肝脂肪化を通じて抵抗性に関与します。

稀な一遺伝子異常では、INSR、AKT2、PIK3R1などの変異が重度インスリン抵抗症候群を引き起こします。LMNAやPPARGの変異による脂肪異栄養症では脂肪分布異常を介して著明なインスリン抵抗性を呈します。

肥満関連遺伝子(FTOやMC4Rなど)は主に体脂肪量を介して二次的に抵抗性に作用します。多遺伝子リスクスコアは群としての傾向を示しますが、個人予測能はまだ限定的です。

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インスリン抵抗性に関するその他の知識

評価法には、クランプ法、FSIVGTT(最小モデル)、混合食試験、OGTT由来指標、HOMA-IRなどがあります。HOMA-IRは空腹時インスリン×空腹時血糖/405で計算されますが、測定系の違いと人種差に注意が必要です。

関連疾患として非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)、多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)、睡眠時無呼吸、痛風・高尿酸血症、慢性腎臓病が挙げられます。いずれも心血管イベントのリスク上昇に結びつきます。

生活介入は最優先で、体重の5〜10%減、週150分以上の有酸素運動と週2〜3回の筋力トレーニング、適正蛋白・食物繊維の多い食事、十分な睡眠が推奨されます。アルコールと超加工食品の過剰摂取は避けます。

薬物では、メトホルミンが第一選択で、体重や肝脂肪の改善にはGLP-1受容体作動薬やSGLT2阻害薬も有用です。PCOSではインスリン抵抗性の改善が排卵や代謝の改善に寄与することがあります。

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