アレルギー感受性
目次
定義と背景
アレルギー感受性とは、花粉症、ぜんそく、食物アレルギー、アトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患を発症しやすい体質や傾向を指す概念です。診断名ではなく「なりやすさ」を示す性質であり、本人の生活史や遺伝的素因、環境曝露の積み重ねによって形づくられます。感受性が高いことは必ずしも発症を意味しませんが、同じ環境にいても症状が出る確率が高まることを示唆します。
この概念は、家族内にアレルギー疾患が集中する現象や、都市化・生活様式の変化に伴って有病率が増加した観察事実を説明する枠組みとして発展してきました。双生児研究やゲノムワイド関連解析(GWAS)により、遺伝と環境の双方が強く関与することが明らかになっています。特に皮膚や気道の上皮バリア機能、免疫系の応答の偏りが鍵となります。
感受性は単一の遺伝子で決まる単純な形質ではありません。多数の遺伝子の小さな効果が重なり、さらに乳幼児期の微生物との出会い、食事、受動喫煙、大気汚染、住環境などの外的要因が相互作用して総体としてのリスクが決まります。いわゆる「多因子性」「多遺伝子性」の典型例です。
臨床的には、感受性の把握は一次予防(発症予防)や二次予防(悪化予防)の計画に役立ちます。例えば家族歴が強い乳児に対して食物アレルゲンの早期導入を検討したり、皮膚バリアのケアを強化したり、屋内環境の調整を行うなど、個別化されたリスク低減策を取る根拠になります。
参考文献
- The genetics of asthma and allergic disease (Ober & Yao, 2011)
- WAO White Book on Allergy 2013 Update
遺伝と環境の寄与
双生児研究では、アトピー性皮膚炎や喘息、アレルギー性鼻炎などの感受性に対する遺伝率は中等度から高いと推定されています。具体的には疾患や集団により幅がありますが、おおむね30〜80%の範囲が報告されてきました。これらは遺伝的差異が表現型差のどの程度を説明するかを示す統計的指標です。
例えばアトピー性皮膚炎の遺伝率は60〜80%とする報告が多く、喘息は35〜70%、アレルギー性鼻炎は30〜60%といった推定が示されています。一方で、同一疾患でも地域や時代により数値は変動し、環境要因の影響の大きさも無視できません。
環境寄与は、出生様式(帝王切開か経腟か)、乳幼児期の微生物暴露、屋内アレルゲン濃度、受動喫煙や大気汚染、食生活、ビタミンD、居住地域の感染症暴露など多岐にわたり、それぞれが遺伝的素因と相互作用して感受性に影響します。
このため、単純に「遺伝が何%・環境が何%」と固定的に断じるより、疾患別・年齢別・地域別に幅を持って理解することが実務的です。最新のGWASやメンデルランダム化、表現型ネットワーク解析は、こうした複合的寄与の内訳をより精密に解き明かしつつあります。
参考文献
- Twin studies of asthma and atopy: heritability overview (Ober & Yao, 2011)
- Global variation in the prevalence and severity of asthma symptoms (ISAAC)
発生機序(バリアとTh2偏倚)
アレルギー感受性の基盤には、上皮バリアの脆弱性と、Ⅱ型炎症(Th2偏倚)への傾きが存在します。皮膚や気道の上皮が乾燥や汚染物質で微小損傷を受けると、アレルゲンが侵入しやすくなり、上皮細胞からTSLP、IL-33、IL-25といったアラーミンが放出され、樹状細胞やILC2を活性化します。
その結果、ナイーブT細胞はTh2細胞へ分化し、B細胞はIL-4/IL-13の作用でIgEへクラススイッチします。産生された特異的IgEが肥満細胞や好塩基球に結合し、再曝露時に架橋されることで脱顆粒やメディエーター放出が生じ、臨床症状につながります。
一方で、乳幼児期の多様な微生物との接触や腸内細菌叢の成熟は、制御性T細胞の誘導を促し、免疫寛容を支えることで感受性の上昇を抑えます。衛生仮説・微生物多様性仮説は、この観点を理論的に補強してきました。
さらに、エピジェネティクス(DNAメチル化やヒストン修飾)は、喫煙や食事、汚染物質などの環境要因を介して免疫関連遺伝子の発現を長期にわたって調節しうることが示されています。これらは遺伝と環境の橋渡し機構として、感受性の可塑性を説明します。
参考文献
- Epithelial barrier hypothesis of allergic disease (Akdis, 2021)
- Hygiene hypothesis revisited (Okada et al., 2010)
代表的な遺伝的要因
代表的な遺伝的要因として、皮膚バリアを担うフィラグリン(FLG)遺伝子の機能喪失変異が挙げられます。FLG変異はアトピー性皮膚炎の強力なリスク因子であり、食物感作や喘息合併のリスクも高めます。バリア破綻が感作経路を開く典型例です。
気道アレルギーでは、17q12-21領域(ORMDL3/GSDMBなど)が小児喘息の感受性座位として再現性高く同定されています。さらにIL33、TSLP、IL1RL1など上皮由来アラーミン経路の変異も関与し、上流シグナルの過敏性を規定します。
Th2シグナル関連では、IL4、IL13、IL4RA、STAT6などの多型がIgE応答や細胞内シグナルを変化させ、感受性を押し上げます。HLAクラスIIの特定ハプロタイプは、食物や花粉タンパクの抗原提示効率を左右し、感作の選択性に影響します。
こうした多遺伝子の微小効果は、ポリジェニックスコア(PGS)として集約可能ですが、臨床応用はまだ黎明期です。疾患別・人種別で外部妥当性が異なるため、予測に用いる際は慎重な検証と補完的な環境情報の併用が求められます。
参考文献
- Filaggrin mutations and allergic disease (Irvine et al.)
- A susceptibility locus for asthma on 17q12-21 (Moffatt et al., 2007)
- Large-scale association analysis of asthma (UK Biobank/TSLP/IL33)
主な環境的要因と介入可能性
環境因子として一貫して重要なのは、受動喫煙と大気汚染です。妊娠中や乳幼児期のニコチン・粒子状物質曝露は、気道発達や免疫成熟に悪影響を与え、喘鳴・喘息のリスクを高めます。禁煙と室内空気質の改善は、感受性を高めないための基本策です。
腸内細菌叢や皮膚微生物叢の多様性も感受性に影響します。抗生物質の過度使用や帝王切開出生は微生物の獲得に影響し、いくつかの研究でアレルギーリスク上昇と関連づけられています。ただし影響の大きさは個人差があり、交絡の影響にも注意が必要です。
食生活では、ピーナッツや卵などの主要食物アレルゲンを適切な時期に導入すると、特定の食物アレルギーの発症を減らしうることが無作為化試験で示されています。一方、妊娠・授乳期の厳格な除去食は予防効果が乏しく、むしろ栄養リスクになり得ます。
屋内アレルゲン(ダニ、ペット、カビ)対策、適切な湿度管理、皮膚の保湿によるバリア維持、インフルエンザやRSVなど呼吸器感染対策も、感受性の上昇や発症のきっかけを減らす実践的手段です。ただし単独介入の効果は中等度で、複合的な生活環境の最適化が現実的です。
参考文献

