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アドレノメデュリン (ADM) 血清濃度

目次

定義と概要

アドレノメデュリン(adrenomedullin, ADM)は、1990年代に発見された52アミノ酸からなる血管作動性ペプチドで、強力な血管拡張作用と内皮保護作用を持ちます。循環血中ではきわめて低濃度(ピコモル/リットル程度)で存在し、不安定で分解されやすいという性質があります。

血清や血漿のADMを直接測ることは可能ですが、採血条件や保存条件の影響を強く受けやすく、臨床現場では分子安定性の高い前駆体断片であるmid-regional pro-adrenomedullin(MR-proADM)が広く指標として用いられています。

ADMは多くの組織で産生され、とくに血管内皮細胞や平滑筋、心臓、腎臓、肺、消化管、胎盤などでの発現が知られています。炎症、低酸素、機械的ストレス、サイトカイン、ホルモン刺激など、多彩な刺激で転写・分泌が誘導されます。

臨床的には、感染症(とくに敗血症や市中肺炎)、心不全、慢性腎臓病、肺疾患、妊娠など多様な生理・病的状態で上昇することが報告され、重症度や予後と相関する非特異的なストレス・内皮機能バイオマーカーとして位置づけられています。

参考文献

測定の意義

ADMは内皮のバリア機能維持、血管トーン調節、ナトリウム排泄、抗炎症・抗酸化などの作用を持ち、全身の恒常性に関与します。したがって循環中濃度は、内皮ストレスや組織灌流の破綻、炎症の全身化を間接的に映し出します。

特にMR-proADMは生体内で安定なため、敗血症や肺炎の重症度評価、心不全や慢性腎臓病の予後予測、退院・トリアージ判断の補助に有用と報告されています。単独では診断マーカーになりにくい一方、既存のスコア(SOFA、CURB-65など)と併用することでリスク層別化を改善します。

感染症領域では、MR-proADMが早期の微小循環障害や内皮障害を反映し、乳酸値やCRP、プロカルシトニンとは異なる生物学的情報を提供する点が注目されています。

ただし、ADM系は多臓器の機能や年齢、腎排泄に影響されるため、結果は臨床背景と総合的に解釈することが不可欠です。

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測定法と理論

成熟ADMの直接測定には、抽出工程を伴うラジオイムノアッセイやサンドイッチELISAが用いられますが、前処理の手間や分解・吸着によるばらつきが問題になります。

MR-proADMはADM前駆体の中でも生体内で比較的安定な中間領域断片で、二つのエピトープを認識するサンドイッチ免疫測定法(例:ケミルミ、時間分解蛍光)で高感度・高再現性に測定できます。

サンドイッチ免疫測定の原理は、固相化抗体で標的を捕捉し、別の標識抗体で挟み込むことで特異的シグナルを増幅して定量するものです。キャリブレーションによって濃度に換算され、結果は通常nmol/L単位で報告されます。

前分析条件(採血管の種類、即時冷却、遠心までの時間、凍結融解回数など)は測定精度に影響します。ADMは特に不安定であるため、安定断片であるMR-proADMの採用が臨床現場で広がりました。

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正常範囲と解釈

成熟ADMの血漿・血清濃度は健常者でピコモル/リットルの低濃度域(おおむね1桁〜10 pmol/L程度)ですが、測定法や前処理で大きく変動し、施設間比較は困難です。

MR-proADMは測定系が標準化されており、一般に健常成人の上限はおよそ0.5〜0.7 nmol/Lとする報告が多い一方、年齢や腎機能で上昇しうるため、各検査室の基準範囲を参照することが重要です。

解釈にあたっては、炎症反応や血行動態ストレス、臓器障害の程度を背景に、時間経過(トレンド)を重視します。単回測定の絶対値より、入院初期からの推移が予後推定に有用な場合があります。

数値は非特異的であるため、特定疾患の診断そのものよりも、重症度の層別化や退院・集中治療の判断補助として活用されます。他のバイオマーカーやスコアと組み合わせることが推奨されます。

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遺伝・環境要因

血中ADMの個人差には、ADM遺伝子自体や受容体系(CALCRL、RAMP2/3)の遺伝的変異が影響しうると考えられますが、一般集団での血中ADMやMR-proADM濃度の遺伝率(%)を精密に推定した報告は限られています。

一方、低酸素、炎症性サイトカイン、機械的ストレス、塩分や体液量変化、ホルモン(ANP、エンドセリン等)などの環境・生理要因が転写を強く誘導し、日常的な変動に大きく寄与します。

そのため、現時点では「遺伝:環境=何%:何%」という一般化された比率を提示するエビデンスは不足しており、環境・疾患負荷の寄与が相対的に大きいと解釈するのが妥当です。

将来的には大規模プロテオミクスとゲノミクスの統合解析によって、ADM関連pQTLの効果量や遺伝率推定が精緻化されると期待されます。

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異常値時の対応

想定外の高値・低値が出た場合は、まず採血から測定までの前分析要因(採血管、保管温度、処理時間、凍結融解)を確認し、必要なら再検を行います。

持続的高値では、感染症(とくに敗血症や重症肺炎)、心不全増悪、腎機能低下、慢性炎症性疾患、肺高血圧などの背景評価が必要です。特定診断は他の所見を総合して行います。

治療はADM値そのものを直接下げることを目的とせず、原因疾患(感染コントロール、循環管理、腎代替療法など)への標準治療が中心です。

研究段階ではADM経路を標的とする治療(例:抗ADM抗体)も模索されていますが、一般診療の標準ではありません。臨床応用の可否は最新のエビデンスを参照してください。

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生物学的役割

ADMは血管拡張、内皮バリア保護、抗炎症、抗酸化、線維化抑制、利尿・ナトリウム排泄促進など多面的に作用します。受容体はCALCRLとRAMP2/3の複合体で、組織特異性を規定します。

生理的には血圧・体液量の恒常性に寄与し、病的状態では過剰産生が内皮保護の代償反応として機能すると考えられます。

心不全や腎障害、肺疾患では、ADM上昇が重症度や予後と関係することが多く報告されていますが、原因か結果かは状況により異なります。

妊娠では胎盤や子宮でADM発現が増え、母体循環の適応や胎児発育に関与します。妊娠高血圧症候群ではADM経路の異常が示唆されています。

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補足知識

ADMは内因性の保護的ペプチドである一方、臨床検査としては非特異的ストレスマーカーに分類されます。そのため、疾患特異的診断よりもリスク層別化への活用が適しています。

腎機能低下ではMR-proADMが上昇しやすく、解釈に補正が必要です。年齢や併存症によるベースラインの違いも考慮します。

他バイオマーカー(プロカルシトニン、CRP、BNP/NT-proBNP、トロポニンなど)と補完的な情報を提供するため、多マーカー戦略が有効な場面が多くあります。

研究・創薬面では、ADM経路を調節する治療介入が敗血症や急性循環不全で検討されていますが、結論はなお流動的です。

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