Forest background
バイオインフォの森へようこそ

アトピー性湿疹

目次

定義と臨床像

アトピー性湿疹(アトピー性皮膚炎, Atopic Dermatitis: AD)は、強いかゆみを伴う慢性・再発性の炎症性皮膚疾患で、乳幼児期に発症しやすく、思春期・成人まで持続または再燃することがあります。乾燥(皮膚バリア障害)と紅斑、丘疹、苔癬化など多様な皮疹が、左右対称性に分布するのが典型です。

診断は臨床像と病歴に基づく総合判断で、国や学会によって定義は細部が異なりますが、かゆみ、典型的分布、慢性・再発性経過の3要素が中心です。血液検査のIgE高値や好酸球増多はしばしば伴いますが、必須ではありません。

生活の質(QOL)への影響は大きく、睡眠障害、集中力低下、学業・就業への支障、抑うつ・不安の増加などが報告されています。小児では家族全体の介護負担や経済的負担も無視できません。

ADはアレルギー疾患群(気管支喘息、アレルギー性鼻結膜炎、食物アレルギー等)と合併しやすく、いわゆるアトピー行進(atopic march)の一部を構成しますが、全例が他のアレルギー疾患へ進行するわけではありません。

参考文献

原因と病態生理

ADは単一原因ではなく、皮膚バリア機能異常、免疫応答の偏り(主にTh2優位)、神経学的かゆみの増幅、皮膚微生物叢の乱れ(とくに黄色ブドウ球菌の過剰定着)が相互に連関して成立します。

代表的なバリア因子として角化細胞のフィラグリン(FLG)遺伝子産物があり、FLG機能低下は経皮的アレルゲン侵入と水分喪失(TEWL)を増大させ、炎症の起点となります。しかし、FLG異常がなくても環境刺激によりバリア障害は生じ得ます。

免疫学的にはIL-4/IL-13などTh2サイトカインが中心的役割を果たし、皮膚のバリア関連遺伝子発現を抑制し、かゆみ受容体を感作させます。慢性化や成人病変ではTh1、Th17、Th22の関与も加わる多相性の炎症がみられます。

皮膚常在菌叢の多様性低下とS. aureusの増殖は病勢と相関し、トキシンによるスーパー抗原作用が炎症を悪化させます。保湿や抗炎症治療、時に抗菌的介入で叢の多様性が回復し、症状改善に寄与します。

参考文献

遺伝学と環境因子

双生児研究からADの遺伝率はおおむね60〜80%と推定され、遺伝素因の強さが示唆されます。ただし遺伝率は集団内のリスク分散の割合を表し、個人における原因の割合を意味しません。

最も再現性の高い遺伝学的リスクはFLG遺伝子の機能喪失変異で、ヘテロ接合でもリスク上昇、ホモ接合でさらに高リスクになります。その他にIL4R、IL13、TSLP、OVOL1など多遺伝子の関与が報告されています。

環境要因としては都市化、低湿度や低温、硬水、タバコ煙、ダニやペット抗原、皮膚刺激性洗浄剤、ストレス、皮膚感染などが挙げられます。乳児では食物アレルゲンの経皮感作も関与しうる一方、経口摂取は耐性誘導に寄与する可能性があります。

早期保湿による一次予防は小規模試験で有望視されましたが、大規模試験・系統的レビューでは効果不確実とされ、現時点で一律推奨は困難です。

参考文献

疫学

世界的には小児の有病率は約15〜20%、成人は5〜10%前後とされ、地域差があります。ISAAC研究は国際比較に貢献し、都市化や社会経済状況との関連が示されています。

日本では小児で約10〜15%、成人で3〜10%程度と報告があり、乳幼児期の発症がもっとも一般的です。多くは成長とともに軽快しますが、成人でも持続・再燃する例が少なくありません。

性差は年齢で異なり、小児期は男児にやや多く、思春期以降は女性に多い傾向が報告されています。ただし研究により差の程度は異なります。

ADはしばしば喘息やアレルギー性鼻炎と共存し、医療資源の負担が大きいことが公衆衛生上の課題となっています。

参考文献

診断・治療・予防

診断は病歴と視診が中心で、他の湿疹群や接触皮膚炎、疥癬、乾癬などの鑑別が重要です。重症度評価にはEASIやSCORADなどのスコアが用いられます。食物アレルギー検査は必要時に選択的に行います。

治療の基盤は保湿(スキンケア)と外用抗炎症薬です。急性炎症には外用ステロイド、顔面や維持療法にはタクロリムス/ピメクロリムスなどの外用カルシニューリン阻害薬が用いられます。

中等症〜重症や外用抵抗例では、ナローバンドUVBなどの光線療法、シクロスポリンなどの全身療法、生物学的製剤(デュピルマブ、トラロキヌマブ)やJAK阻害薬(バリシチニブ、ウパダシチニブ、アブロシチニブ)等の選択肢があります。

予防・再燃抑制には、保湿の継続、誘因(強い洗浄、汗・熱、ダニ・ハウスダスト、ストレス等)の回避、適切な入浴と衣類選び、爪ケア、感染対策が有効です。

参考文献