いびき
目次
定義と概要
いびきは睡眠中に上気道の粘膜や軟口蓋が振動して生じる呼吸音で、軽微なものから同室者の睡眠を妨げるほど大きいものまで幅があります。単なる騒音というだけでなく、睡眠の質の低下や日中の眠気の背景にあることもあり、健康上の指標として重要視されます。
多くの場合、いびきは気道が狭くなり、吸気時に陰圧が生じることで軟部組織が揺れることにより発生します。上気道の解剖学的形状、鼻閉、体重、飲酒、睡眠姿勢など複数の要因が関与し、夜ごとに程度が変動することも珍しくありません。
いびきは閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)の警告サインである場合があり、とくに呼吸停止やあえぎ、日中の過度の眠気、高血圧などを伴うときは精査が必要です。OSAの合併がない「一次性いびき」でも生活の質や対人関係に影響し、治療の対象になりえます。
疫学的には成人の相当数が習慣的ないびきを経験し、男性や高齢者で頻度が高い傾向があります。原因は多因子で、遺伝的素因と環境要因の双方が絡み合って個人のいびきの起こりやすさを規定します。
参考文献
原因と発生機序
いびきの直接原因は上気道の狭窄と壁の振動です。解剖学的には軟口蓋、口蓋垂、舌根、扁桃、咽頭側壁などが関与し、吸気時に陰圧で引き込まれて振動します。気道のコンプライアンスが高いほど振動しやすく、肥厚や炎症も悪化要因になります。
鼻閉や鼻中隔弯曲、アレルギー性鼻炎などで鼻呼吸が障害されると口呼吸に偏り、口腔内の陰圧が強まり軟口蓋の振動が増します。上向き(仰臥位)での睡眠は重力により舌根が後退して気道を狭め、いびきを悪化させます。
飲酒やベンゾジアゼピン系などの鎮静薬は上気道筋トーンを低下させ、睡眠段階の変化と相まって気道虚脱を招きやすくします。肥満とくに頸周りの脂肪沈着は気道内径を減少させ、咽頭の内圧バランスを悪化させるためいびきの主要因です。
OSAでは気道の反復的な閉塞・低換気が起こり、いびきは断続的に大きくなる傾向があります。覚醒反応で筋緊張が一時的に回復し、再び睡眠に入るとまた狭窄するというサイクルが夜間を通じて繰り返されます。
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健康への影響と合併症
一次性いびき自体は生命に直結しませんが、睡眠の断片化や同室者の睡眠妨害による家庭・社会的影響が無視できません。仕事の能率低下や日中の不調につながることもあり、QOLの観点から評価と対策が求められます。
いびきがOSAの一部である場合、間欠的低酸素や交感神経亢進により高血圧、心血管疾患、耐糖能異常などのリスクが上昇します。頭痛や夜間頻尿、起床時の口渇などの非特異的症状も見られます。
妊娠関連いびきは妊娠高血圧や妊娠糖尿病との関連が報告され、周産期管理の一要素になり得ます。小児のいびきはアデノイド肥大などが原因で、行動・学習面への影響が示されています。
いびきの存在は必ずしも重症OSAを意味しませんが、同居人からの指摘やスマートフォン記録で大音量・高頻度が示される場合、医学的評価によりリスク層別化を行う価値があります。
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診断と検査
診断は問診と身体所見から開始し、いびきのパターン、同伴症状(無呼吸、あえぎ、日中過眠)、既往歴、薬剤や飲酒習慣を確認します。口腔・鼻腔・咽頭の解剖学的評価やBMI、頸囲測定も有用です。
スクリーニングにはSTOP-Bangなどの質問票が用いられ、OSA高リスク群を抽出します。スマートフォンアプリや家庭用の簡易モニターは補助的情報を提供しますが、確定診断には限界があります。
OSAが疑われる場合は、終夜睡眠ポリグラフ検査(PSG)か在宅睡眠時無呼吸検査(HSAT)が推奨されます。PSGは脳波や呼吸、酸素飽和度など多項目を同時に記録し、重症度評価と治療方針決定に資します。
一次性いびきの評価でも鼻腔抵抗の測定や内視鏡での上気道観察、体位の影響評価が役立ちます。歯科では咬合や下顎形態の評価を行い、口腔内装置の適応を検討します。
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治療と予防
生活習慣の修正が第一選択です。減量、就寝前の飲酒・鎮静薬の回避、側臥位での睡眠、睡眠衛生の改善、鼻炎の治療などで多くの症例が軽快します。禁煙は咽頭炎症の軽減に寄与し、いびき・OSA双方の改善が期待できます。
一次性いびきや軽症OSAには下顎前方移動式の口腔内装置が有効で、就寝中に下顎・舌根を前方位に保持して気道を拡げます。アレルギー性鼻炎が強い場合は鼻用ステロイドが補助的に役立つことがあります。
中等症以上のOSAや症状が強い場合は持続陽圧呼吸療法(CPAP)が第一選択で、上気道を空気圧で支え虚脱を防ぎます。解剖学的狭窄が強い場合やCPAP不耐では外科治療や舌下神経刺激療法が検討されます。
予防の基本は体重管理とアルコール・鎮静薬のコントロール、鼻呼吸の確保、規則正しい睡眠です。早期に評価・介入することで、合併症リスクと生活への影響を軽減できます。
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